作品よりもスリリングな人生だ

アウトサイダー 陰謀の中の人生』(フレデリック・フォー サイス
 KADOKAWA)読了。

ジョン・ル・カレフレデリック・フォーサイスは私の中では
スパイ小説の2大巨匠だ。尚、異論は喜んで認める。

ジョン・ル・カレは『地下道の鳩』と題した回想録を出版した。
各章それぞれが、まるで短編小説を読んでいるようだった。

そして、フォーサイスの自叙伝もまた、珠玉の短編小説てんこ盛り
と言う感じだ。否、こちらはご自身が世に送り出したスパイ小説
以上にスリリングと言った方が妥当かもしれない。

作家の自叙伝だからいくらかは話を持っているとは思う。それでも、
空軍除隊後、ジャーナリズムの世界に飛び込んで経験したことは
後のスパイ小説家としての財産にもなったのだとうろと感じるし、
ジャーナリストとしての経験がなければ数々の作品で読者を魅了
することもなかったのではないか。

地方紙の記者としてジャーナリストとしての第一歩を踏み出した
フォーサイス。その後、偶然と幸運に恵まれロイター通信、BBC
移籍して行くのだが、ロイターとBBCに在籍した際にパリや東ドイツ
ナイジェリア内戦で見聞したことが作家としての作品に生かされる
と共に、ナイジェリア内戦での経験は彼の反骨精神を感じさせる。

特にBBC本社及びイギリス政府が詳細を隠しておきたかったナイ
ジェリア内戦についてはかなりの紙数をさいていることもあり、
飢餓に見舞われた人々の描写には、不覚にも涙が零れた。

BBCを辞めた後に作家となるのだが、初期三部作の裏話も満載だ。

それにしても…だ。諜報機関の協力者であり、元ジャーナリストで
もあり、スパイ小説家でも、投資信託詐欺にあって財産がすっから
かんになるなんて。しっかりして!フォーサイスさん。

細かいエピソードを取り上げたらキリがない。全編、ワクワク
ドキドキの自叙伝だ。内容をどこまで信じるかは、読み手次第
だけどね。

私は信じたいわ。だってスパイ小説を書いている人よ。その人の
人生が平凡なはずはないもの。