命がけの大スクープの裏側

シリア政府軍がアレッポで塩素ガスを使用だと?お得意の樽爆弾で
投下したようだが、こりゃもう虐殺だろう。

反政府勢力の支配地域だから何をしてもいいと思っているんだろうな。

再度の停戦合意が発表されたけれど、また反故にされちゃうんじゃない
だろうな。

『危険な道 9.11首謀者と会見した唯一のジャーナリスト』 (ユスリー・ フーダ
 白水社)読了。

大袈裟ではなく世界中が衝撃を受けた2001年9月11日のアメリカ同時
多発テロ。後にウサマ・ビン・ラディン率いるアルカイダの犯行だとされ
た事件だが、当初は犯行声明を出した組織はなかった。

事件から7か月後、著者の携帯電話に謎の男から連絡が入る。事件か
ら1年を契機に特別なテレビ番組を作る気はないか。その気があるのな
らば、素材を提供しよう。

著者はエジプト国籍でイギリス旅券を持ち、アラブ世界で人気を誇る
カタールのテレビ局アルジャジーラの設立にも係わった記者である。

謎の男からの連絡から始まった著者の旅は、のちの大スクープとなる。
何度もの電話やFAXでのやり取り、周到な準備、そして目隠しをされて
連れていかれた部屋で著者の目の前にいたのはFBIのホームページ
に重大指名手配犯として顔写真が掲載されていた、ふたりのアルカイダ
幹部だった。

アルカイダ幹部ふたりへのインタビューが実現するまでと、アルジャジー
ラが独占インタビューを放送した後まで、すべてが下手なスパイ小説より
も面白い。いや、面白いというと語弊があるのだが、事実は小説よりも奇
なりを地で行っている。

この放送でアルジャジーラは欧米からは散々非難されたんだよね。「テロ
リストの手先」だって。だって、著者がこのインタビューを入手するまで、
どんな組織がなんの目的であんな事件を起こしたのか不明だったのだ
もの。

9.11を扱った作品は他にも読んだけれど、アラブ人の視点で書かれた
作品は本書が初めてだった。

例え世界中から「テロリスト」と呼ばれる人物であっても、情報源は守る
という著者の、ジャーナリストとしてのスタンスが明確に表れている。

それは第2部の、ある武装勢力を取材する為にシリアからイラクへの不法
入国を試みた際にも発揮されている。武装勢力との接触は出来ずに引き
返すことになり、シリア当局に拘束されるのだがここでも著者は自分だけ
が助かろうとはせず、手引きしてくれたふたりの身を慮っているのが素晴
らしい。

事実を伝えることがジャーナリストの仕事であると同時に、その協力者や
情報提供者を守ることも、またジャーナリストの責務でもある。ウォーター
ゲート事件を報じた「ワシントン・ポスト」の記者が、情報源であった
ディープスロート」の身元を隠し続けたように。

「あそこの新聞は、あんなことを言ってますよ。おかしいですよね」と足の
引っ張り合いばかりしている日本の新聞記者の皆さまは、著者の爪の
垢でも煎じて飲めばいいのに…ブツブツ。

局面での著者の判断力の鋭さにも感服した。「訳者あとがき」も素晴らしく、
自分の視点がいかに欧米寄りかに改めて気づかされた。

何事にも多様な視点が必要なんだよな。分かっているんだけれど、難しい
わぁ。