自分の言葉を持った政治家

「(東京五輪の)開催には都民、国民の皆様の共感とご理解が
必要」

共感も理解もしていないので、簡素化でも開催には反対です。
即刻、中止表明してくれませんかね?東京都知事様。

『言葉の力 ヴァイツゼッカー演説集』(永井清彦:編訳
 岩波現代文庫)読了。

本書は私が下手な感想を書くより「読んでくれ!」の一文
だけで十分な気がする…。

ドイツがまだ東西に分かれていた頃、西ドイツの第6代大統領
であり、「言葉の人」とも呼ばれたヴァイツゼッカーの演説集
は、「言葉とそれが伝える内容こそ政治」を確信していた人
らしく、他国に生を受けた私でも胸に刺さるものが多い。

第二次世界大戦の敗戦40年を迎えて連邦議会で行った演説
「荒れ野の40年」は日本でも有名だろう。

「問題は過去を克服することではありません。さような
ことができるわけはありません。後になって過去を変え
たり、起こらなかったことにするわけにはまいりません。
しかし過去 に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目
となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、
またそうした危険に陥りやすいのです」

日本国内でもホロコーストを否定する輩もいるんだよね。

ドイツ統一後には旧東ドイツは大きな経済的混乱に陥り、
人々は移民などのマイノリティに捌け口を求めた。

それを止める為に「人間の尊厳は不可侵である」との基本
法第一条の言葉を旗印に掲げ、反暴力デモの先頭に立ち、
「暴力を排す」との演説を行った。その一節をいかに記す。

基本法には、人間の尊厳を尊重し擁護することはすべての
国家権力の責務であると規定されています。しかし、われわれ
個々人が人間の尊厳を義務だと理解していなければ、これを
生かすことはできません。隣人の尊厳とわたし自信の尊厳とは
不可分であり、他人の尊厳を尊重することを知ってはじめて
自分の尊厳を感じることができます。他人の尊厳を守ることを
助けないと、他人の尊厳と同様、自分の尊厳をも傷つけること
になります」

本書のヴァイツゼッカーだけではなく、現在のドイツのメルケル
首相がコロナ禍のなかで国民に呼びかけた「(政府を)頼って
ください」とか、アメリカで起きた警察官による黒人男性殺害
事件へのコメントを求められてしばしの沈思黙考後に「我が国
にも差別の問題はある」と語ったカナダのトルドー首相とかを
見ていると、日本の政治家って言葉の持つ力を知らないなぁと
感じてしまうんだよね。

過去には「反軍演説」を行った斎藤隆夫のような政治家もいた
けれど、「自分の言葉」で話すことのできる政治家がいない。
用意された原稿を、文節も無視してぶった切りながら棒読み
するだけならAIの方がましなんだが…ブツブツ。

「荒れ野の40年」「暴力を排す」を含め、11本の演説は根底
キリスト者であることがあるのだが、信仰が異なっても
「この人は自分の言葉を持った人なのだな」と感じさせる。

 

言葉の力 ヴァイツゼッカー演説集 (岩波現代文庫)

言葉の力 ヴァイツゼッカー演説集 (岩波現代文庫)

  • 発売日: 2009/11/13
  • メディア: 文庫