フィンランド伝説

質問したこととまったく違う答えを返して来る上司に対し、
「…そんなことは聞いてません。何を聞かれているか理解
してますか?」と、奥歯を噛みしめながら聞いてみた。

馬鹿な上司のもとにいるのはお客様対応よりも疲れる。(-_-;)

『雪中の奇跡』(梅本弘 大日本絵画)読了。

ソ連軍から分捕った軍服を着こんでソ連兵に紛れ込み、「部隊
全員分っ!」とバケツいっぱいのシチューを持ち帰る。しかも、
ばれないのをいいことにこれを2週間も続けた。

同じようにソ連軍から分捕った信号旗を手にして、ソ連軍の補給
車輌でごった返す林道で交通整理をする。大渋滞から救われたソ連
軍の指揮官は交通整理をしてくれた男に感謝の言葉を投げかけた。

指示された方向がフィンランド陣地のど真ん中であることも知らずに。

分捕ったのは軍服や信号旗だけではない。なんでも分捕る。戦車、
弾薬、機関銃その他もろもろ。分捕って使う。そして分捕られたソ連
軍を苦しめる。

そんな奴らの正体はフィンランド第二次世界大戦のどさくさに紛れて、
「お前らの国の一部、俺らに貸せや。貸せって言っても実質、俺らの
領土にするけどな」と侵攻したソ連に対し、「はぁ?何言っているか
分かんねぇ。そんな条件、飲めるかよ。もう怒ったっ!」と立ち上がっ
フィンランドとの戦争「冬戦争」を詳細に描いたのが本書だ。

「白い死神」と称される狙撃手シモ・ヘイヘ帝政ロシアの軍人であり
祖国フィンランドの危機に立ち上がった「白い将軍」マンネルヘイム等、
ソ連フィンランド戦争は数々のフィンランド伝説を生んだ。

「軍備も人員も圧倒的に俺らが上。負ける気しないわぁ」と無理くり
フィンランドに侵攻したソ連。周囲の国も「国力違うし、フィンランド
はお気の毒だが1週間くらいしか持ちこたえられないだろう」と思って
いた。

しかし、フィンランドは善戦する。1週間では終わらなかった。国を挙げ
ソ連に立ち向かったフィンランドは105日を戦い抜いた。

各戦闘場面がかなり詳細に描かれている。著者はフィンランドまで取材
に赴き、さまざまな資料にあたったのだろう。冬戦争の生き残りの兵士
からも貴重な話を聞いている。

決して私が書いたようなふざけた内容ではない。いたって真面目。しか
もとことん、調べて書かれているので戦史としても大変参考になるし、
図版も多くて読み物としても楽しめる。

冬戦争の初期こそ、優秀な軍人を粛正しまくったスターリンのおかけで
イケイケだったフィンランドだったが、戦争が進むにつれて苦しい立場
に追い込まれる。

ソ連側の提案した和平を飲み、国土の一部は奪われたものの独立を
勝ち取ったことが、バルト三国フィンランドの違いかもしれない。

「戦える力がかろうじてまだ残ってる今こそ、和平協定のテーブルに
着かなければならない、もし軍がこれ以上戦えないというのであれば
我々は何を材料にソ連と協定を結べるというのだ、そこに残されてい
るのは完全な屈服だけだ」

マンネルヘイム将軍の言葉だ。奥が深い。

贅沢を言えば、政治的な動きが戦場の様子と並行してもう少し描かれ
ているとよかったかも。

シャイだと言われるフィンランド人、本気で怒らせたら怖いかもしれん。