真剣に、必死に、は当たり前

ホルムズ海峡でのタンカー襲撃事件。まさか、第2のトンキン湾
事件ってことはないだろうね。

北方領土交渉秘録 失われた五度の機会』(東郷和彦 新潮文庫
読了。

鈴木宗男事件から発展した外務省の不祥事に関連して、退官を
余儀なくされた元外交官の筆になるソ連・ロシアとの北方領土
返還交渉の近代史。

なのだけれど、やっぱり冒頭は自身が関与したと言われる外務省
不祥事の記述からになっている。

これを冒頭に持って来たのは「事件とも言えない宗男先生の事件
に関連して、佐藤優氏等、外務省のロシア・スクールを排除した
のが交渉が進展しない原因」とほのめかしたいからか?と感じた
のは私の深読みのし過ぎか。

著者自身がソ連・ロシアとの交渉に深く関わっていたので、秘録と
言うよりも「あの時、こんなことがあった」との回想録と言った方
がいいかも。

日本でも「もしかして、返してくれるんじゃないか」との期待が
高まったのは酔いどれ・エリツィン大統領の時だが、あの頃の
エリツィン大統領って健康不安や縁故政治への批判もあったので、
一国のトップとしての寿命は尽きかけていいたんじゃないのか?

外務省としてはその辺りの情報をどれくらい掴んでいたのか、本書
からは不明である。ソ連の8月クーデターの時には著者曰く「情報は
掴んでいた」とは言うものの、十分に活用出来てはいないんだよな。

だから、今現在、プーチン閣下のロシアに振り回されているのでは
ないだろうかと思うのだ。「まずは経済協力をしよう」と言われる
ままに金だけ持って行かれてないか?

だって、ロシア軍は択捉島国後島で最新鋭のミサイル発射演習ま
でしているのだから。これ、返す気なんてさらさらないって証しだ。
まぁ、日本に米軍基地がある限り、返したくないのだろうけどな。

本書では橋龍こと橋本龍太郎とサメの脳みそ・森喜朗は役に立った
が、小泉純一郎は引っ掻き回しただけとの印象を受ける。それを更に
交代させたのが当時の民主党政権って感じか。

前原誠司外務大臣だった時、ロシアのラブロフ外相に相手にされて
いなかったものなぁ。余談だが、ラブロ不外相の声は渋くて素敵なの
であ~る。

著者が築いたロシア側とのパイプ、外交の裏舞台などの描写もあって
文章も上手く読ませる構成になっており、日露外交史の一面としては
参考になる。

だが、「真剣に」「必死に」との表現がかなりの頻度で出てくるので
「外交はそういうもんだろう。特に北方領土返還交渉なんて真剣に
必死にやるのは当たり前だろう」と突っ込みたくなった。

尚、つい最近、酔っぱらった上で戦争によって北方領土を取り返すこと
について言及した頭のイカレタ国会議員がいたが、こういう輩が民間の
交流を台無しにするんだよな。

 

北方領土交渉秘録―失われた五度の機会 (新潮文庫)

北方領土交渉秘録―失われた五度の機会 (新潮文庫)