悪魔と天使、光と闇

2年3か月、職場を同じにしたスタッフが今日で去って行った。

帰りがけに挨拶を交わしたが、ここ2か月で見られなかった晴れやか
な顔をしていた。そうだよね、相当なストレスだったもの。

お疲れ様でした。お元気で。

『闇に魅入られた科学者たち 人体実験は何を生んだのか』(NHK
フランケンシュタインの誘惑」制作班 NHK出版)読了。

科学はやはり諸刃の剣なのだと思う。事が起きた時代にはそれは
最先端であり、画期的であり、探求心と使命感の結実だったのだ
ろう。

しかし、価値観も倫理感も異なる時代になれば異端となり、事件と
呼ばれるようになる。

NHKBSプレミアムで放送された「フランケンシュタインの誘惑」
から5つの科学事件をピックアップした書籍版である。

解剖医ジョン・ハンターは次代が彼の探求心に追いつかなかったの
だろうし、ウォルター・フリーマンのロボトミー手術は初期には
確かに精神疾患者を救ったのだろうし、フィリップ・ジンバルドー
の「スタンフォード監獄実験」は置かれた状況が人の心に作用する
ことを見事に実証した。

人体実験が禁忌ではなかった時代だ。それは分かる。それでも現在
から各々の事件を見ると「酷い」と思わずにはいられないし、本書
でも触れられているようにおぞましさは今でも連綿と続いているの
ではないか。

ユダヤ人や障害者を断種したのはナチスばかりではない。日本でも
優生保護法により断種が行われていたし、出生前診断で胎児に障害
があることが判明すれば堕胎という道を選ぶことも出来る。

アメリカでは重篤な障害を持って生まれた女児の両親からの申し出
に添って、子宮などの摘出手術が行われたアシュリー事件もあった。

科学は生命という神秘の領域にまで手を突っ込み、近い将来、親が
望んだ通りの子供を得ることが出来るようになるかもしれない。
ぞっとする話ではあるが。

旧東ドイツのスポーツ選手への国歌ぐるみのドーピングについては
世界的なニュースになった。だからと言ってドーピングがなくなる
はずもなく、いたちごっこになっていやしないか。

科学の引き起こす善と悪。どこで線引きをするのかは難しい問題
なのかもしれない。科学の力を行使する側の思惑によって、恩恵
にもなり恐怖にもなるのだから。

きっと、科学者たちの心の中にも天使と悪魔が囁き合っている
のだろうな。歯止めが効かなくなった時、後世から「事件」と
呼ばれ、極悪人扱いされるのだろう。

生憎とテレビ番組は観ていなかったのだが、書籍化された本書は
充分に興味深く読めた。