疑惑の指名

「私ってのろまだから」「私ってでぶだから」。こんな言い方ばっかり
されていると、少々…いや、かなり鬱陶しくなる。

今日も今日とて、人の昼休みを邪魔しに来て同じようなことばりを
言う。…そんなどうでもいいことを聞かされるより、本の続きが読みたい
のだがねぇ、私としては。

今日はシフトの時間がずれていると思って油断していたのだが、昼休みは
20分しか差がなかった。がっくりである。

うんざりして来たので、遂に言ってしまった。「そうですね」のひと言。これは
効果があったようで、そそくさと喫煙室を出て行った。でも、きっと他のスタッフ
に「ああ言われた。こう言われた」って言ってるんだろうな。ま、いっかぁ。

ローマ人の物語25 賢帝の世紀[中]』(塩野七生 新潮文庫)読了。

腐女子ならローマ史を知らなくても、この名を知らぬ者はいないと思っている
ハドリアヌス帝の登場である。実際、腐女子でも知らぬ人は多いんだけど。笑。

10歳で父を亡くしたハドリアヌスの後見人になったのは、後に皇帝となった
トライアヌス(先帝)とアティアヌス(後の近衛軍団長官)。

基礎教育を受けさせようと首都ローマに呼び寄せれば、エリート階級には
不可欠だったギリシア語を学ぶのは勿論なのだがギリシア文化全般に
傾倒して行く。

ローマの男ならば質実剛健でなければならぬ。ふたりの後見人にとっては、
ギリシア文化=軟弱なのだ。「このままではネロになってしまうっ!」と
思ったかどうかは知らぬが、14歳になったハドリアヌスは故郷へ送り
返される。

これで安心と思いきや。今度は狩に熱中して、やはり後見人ふたりを
心配させる。極端から極端に走ってるなぁ。

このハドリアヌスの皇帝就任には疑惑が残っている。先帝トライアヌス
死・の床で後継指名をしたのだが、それは本当に皇帝自身が口にしたこと
なのか。著者の指摘を読むと、怪しさいっぱいの使命なんだよなぁ。

さて、笑い話。ある日、皇帝となったハドリアヌスは公衆浴場へ足を向ける。
そこで目にしたのは以前、自分の下で百人隊長を務めた老人が、石鹸だらけ
の体を浴場の壁に擦り付けていた姿だった。

話を聞くと、垢すりを雇う金がないとのこと。皇帝は以前の部下に費用付きで
垢すり専用の奴隷をふたりも贈った。

次の日、皇帝が再び浴場に出向くと背中を擦り付ける老人たちで、壁が埋まって
いた。

時代や国が変わろうと、人間のこういうところって変わらないんだなぁと、
妙に納得しながら笑ってしまった。