警鐘に耳を貸さなかったのは私たちだ

立法府の長であり、森羅万象を担当している我が国の内閣総理大臣
今度は野党の不正統計追及に「だからなんだってんだ」と野次を
飛ばしたかと思ったら、「私が国家ですよ」と来たもんだ。

国難」だよ。

『熊取六人組 反原発を貫く研究者たち』(細見周 岩波書店
読了。

「大きな事故の要因となるような事象、例えば、立地場所で極めて
大きな地震津波、洪水や台風などの自然現象が過去になかったこ
とはもちろん、将来にもあるとは考えられないこと。」

原子炉立地審査指針に明記されていた文章である。この条件に照ら
したならば、既存の日本の原子力発電所はほぼアウトである。

尚、「明記されていた」と過去形で書いたのは福島第一原子力発電所
の事故以降のどの時点でかは不明だが書き換えられており、「大きな
地震津波、洪水や台風」の部分がばっさりと削除されている。

こそこそと何をしてくれているんだ?文部科学省

原発は安全でクリーン、運転時に二酸化炭素を排出しない、日本の原発
の審査は世界一厳しい(どこがどのように厳しいのかは教えてくれない)。

地震列島、火山列島である日本で、原発立地の近くに活断層があっても
「この活断層は死んでいる」と断定してボコボコ原発を建てて来たこと
そのものが大間違いなのだ。

3.11のあの大事故があっても「低線量の被曝なら体にいい」とか言い出し
た学者さんもいた。なら、お前が実証して見ろとと思ったのだが。

原発建設は国策である。だから、原発推進派の学者ばかりが電力会社の
プロパガンダを広めようとメディアに出て来る。しかし、少数ではある
原子力を研究するうちにその危険性に警鐘を鳴らす研究者もいる。

今中哲二、海老澤徹、川野眞治、小出裕章、小林圭二、瀬尾健。京都
大学原子炉実験所に在籍し、実験所のある場所から「熊取六人組」と
呼ばれるようになった人たちだ。

本書は彼らが何故、反原発に転じたのか。原発の危険性を訴える為に
どのような活動をして来たのかを詳細に追っている。

本書で特に注目するべきは日本初の原発訴訟となった伊方原発訴訟の
過程だ。建設反対派の原告住民側の証人として出廷し、被告である国
側が用意した専門家の安全理論を破たんさせている。

それでも、どうしても原子力発電を推進したい国側は権力をフルに発揮
して裁判長を交代させ、結果は原告住民側の敗訴となっている。

この訴訟の過程を読んでいると、原発安全神話がどれだけ脆い土台の
上に成り立っていたかが理解出来る。

スリーマイル島原発事故の際も、チェルノブイリ原発事故の際も原発
推進派の人たちは「日本では起こりえない」と言い切り、なんら危機感
を持たなかった。とある政治家は「全電源喪失は起こりえない」とまで
国会で発言した。

そうして、3.11を迎え、福島第一原子力発電所の事故が起きた。この
大事故が起きる以前から、原発の危険性に警鐘を鳴らしていた研究者
たちがいたのに、私たち国民の多くは耳を傾けなった。知ろうとしな
かった。

急逝したひとりを除き、熊取六人組も既に定年退職を迎えた。原子力
研究しながらも、その危険性を広く訴える後継の研究者が増えることを
願いたい。

そして、福島第一原子力発電所の事故を我々一般国民も忘れてはならない。