長きに渡る友情の物語

出勤日だったので休憩時間にしかテレビ中継を観られなかったのが
残念なんだが、森友学園の籠池理事長の国会証人喚問が終わった。

「松井さんは梯子をかけてあげたのに、あんたが自分で梯子から落ちた」

素晴らしい尋問じゃないか、維新の下地センセイ。墓穴を掘ったことに
気づいているのかしら。久し振りに見事な自爆だったね。

籠池理事長が言っていたように、関係者全員を証人喚問した方がいいよ。
まずはチンピラ府知事と安倍昭恵さんだね。

『キム・フィルビー かくも親密な裏切り』(ベン・マッキンタイアー
 中央公論新社)読了。

冷戦の時代。イギリスのみならず西側世界に大きな衝撃をもたらした
稀代の二重スパイ、「ケンブリッジ・ファイブ」のひとりでもあるキム・フィ
ルビー。本書はフィルビーの評伝であると共に、スパイ同士の友情の
物語でもある。

フィルビーと同様にイギリスの上流階級に生まれたニコラス・エリオットは
無二の親友を亡くした直後にフィルビーに出会い、その人間的魅力に惹か
れた。

生まれ育った環境が似ていたふたりの心が通じ合うに多くの時間は必要
なかった。情報機関に所属し、ふたりは共に出世街道を歩む。

そのなかでフィルビーがソ連に通じていることは何度か発覚しそうにはなる。
1回目はソ連の在外大使館員によるもの。イギリス情報機関の二重スパイに
関する情報を携え、イギリスへの亡命を打診して来た人物はフィルビー自身
によって見殺しにされた。

2回目はアメリカ情報機関の暗号解読班によるお手柄だった。これはイギリ
ス側も無視することは出来ない。だが、状況証拠のみによる二重スパイ疑惑
は、フィルビー擁護派と懐疑派にイギリス情報機関を二分しただけで、本人
は事情聴取も上手く切り抜けた。

しかし、3回目には疑惑は決定的なものとなった。過去、フィルビーにソ連
スパイにならないかと誘われた人物の証言が得られたのだ。

その年月、約30年。祖国イギリスではなく、ソ連に向けたフィルビーの愛国心
が完全に暴かれることとになる。

親友の不遇の時代、精神的な支援はもとより経済的にも支援を惜しまず、
フィルビーの家族さえも支え、信じ、多くの秘密を分かち合ったエリオットは、
自らフィルビーの尋問を買って出る。

どんな心境だったのだろうな。後年、エリオットは自体が発覚する前から
フィルビーを二重スパイだと疑っていたと語ってるのだが、それは後付けの
言い訳なのだろうと思う。だって、ソ連側へ情報を渡すのにエリオットだって
利用されていたのだから。

ただ、エリオットはどこかでフィルビーを憎み切れなかったのではないかと
思う。フィルビーへの一連の尋問を後任に引き継ぐ際、フィルビーに監視も
つけず、尋問場所であったベイルートを離れているのだもの。

筋金入りの情報部員であるエリオットだ。うっかりしていた…なんてことはない
だろう。著者も推測しているのだが、すべてが明るみに出る前にフィルビー
が亡命できる機会を作り、イギリス情報機関の面目を少々保つと同時に、
友を重罰から守ったのではないだろうか。

エリオットの出世はフィルビー亡命で閉ざされた。だが、エリオットよりも酷い目
にあったのはアメリカCIAのジェームス・ジーザス・アングルトンだ。

CAIの前身となる情報機関は諜報のプロフェッショナルであったイギリスで教え
を受けた。アングルトンもその時のメンバーであり、講師となったフィルビーに
心酔した。

そうして、フィルビーがワシントン支局に赴任した際には一緒に食事をしながら
多くの秘密を共有した。エリオット同様、アングルトンの漏らした秘密はすべて
フィルビーを通じてソ連に報告され、潜入した多くの工作員が殺されたり、行方
不明になったりしているのだ。勿論、失敗した作戦も山積みだ。

フィルビー二重スパイの衝撃は、アングルトンにパラノイアをもたらした。以降、
アングルトンは誰彼かまわずにソ連のスパイだと疑ってかかるようになってしま
うのだもの。

スパイを扱ったノンフィクションは他にも読んで来たが、スパイと二重スパイの
友情にスポットを当てた本書は、これまでのノンフィクションと一味違う。

作中、イアン・フレミンググレアム・グリーンの名前も登場し、イギリスが行った
スパイ大作戦の模様も詳細に綴られている。

ジョン・ル・カレによる「あとがき」も秀逸。

でも。スパイは結局は幸せになれないのかも。あれほどソ連に尽くしたフィルビー
だって、亡命後はプロパガンダに利用される以外はモスクワがもろ手を挙げて
歓迎してくれたのではないんだものね。

蛇足だが、この「かくも親密な裏切り」というタイトルも格好いいわ。