不正はなぜ、繰り返されるのか

「神の名の下に、先住民に対してたくさんの深刻な罪が犯された」
「はっきりと言いたい。アメリカ大陸征服の際、先住民に行われた
犯罪行為について謙虚に謝罪したい」

南米訪問中のローマ法王は、ボリビアでの演説で先住民に対する
キリスト教徒の罪を詫びた。

戦後70年の我が国首相が行う談話、反省はするが謝罪はしない
ようだけど…ブツブツ。

『論文捏造』(村松秀 中公新書クラレ)読了。

NHKで放送されたドキュメンタリー番組「史上空前の論文捏造」の
書籍化である。

科学の世界に彗星のごとく現れた若き研究者ヤン・ヘンドリック・
シェーン。世界中の優秀な科学者が終結するアメリカ・ベル研究所
を舞台に、彼は超伝導の世界で次々と斬新な研究結果を発表した。

物理学上の大発見だった。いくつかの科学賞を受賞し、ノーベル賞
受賞も確実視され、様々な研究機関からの好待遇でのヘッドハン
ティングも行われた。

しかし、有名科学誌に掲載された彼の論文を元に、多くの科学者が
再現実験を試みるが誰一人として成功しない歳月が続いた。

そんななか、とある研究者の元に匿名のメッセージが届く。「これは
あなたへの宿題です。シェーンのふたつの論文をよく見て下さい」。

決定的な瑕疵だった。ふたつの論文に掲載されていたデータは、
そのノイズまでもが完全に一致していた。

まるでミステリーを読むようなノンフィクションである。疑惑を持たれ
ながらも、何故、3年もシェーンの不正が発覚しなかったのか。

共同研究者に名を連ねた著名な研究者の権威、企業が運営する
研究所と特許や利益との関係、再現実験が不成功に終わった際
の研究者たちが論文の整合性を疑うよりも「自分の技術が悪い
のではないか」と思う性善説

この論文はおかしいのではないか。そう思ってもそのおかしさを
明確に立証できなければただの誹謗中傷になってしまうんだよね。

そうして、一番難しい問題は「誰が責任を負うのか」という点。この
シェーン事件は責任を負い、研究の世界から身を引かざるを得な
かったのはシェーン本人のみだ。

論文を掲載した科学誌「ネイチャー」「サイエンス」の両誌には
論文を精査する能力がなく、組織には自浄作用が働かない。

研究室で長時間を過ごしていたシェーン。しかし、誰も彼が実験を
している姿を見たことがなかった。異なる論文への同じデータの
掲載が明るみに出ると「間違って掲載した」とあさっりと言う。

何かに似ていないか?そう、記憶に新しいSTAP細胞問題だ。

尚、シェーンはベル研究所を去った後、故郷のドイツの田舎町で
暮らしていると言う。