何とも薄っぺらい獄中記

『LONESOME隼人 獄中からの手紙』(郷隼人 幻冬舎)読了。

毎月曜日の朝日新聞に掲載される「朝日歌壇」。そのコーナーで注目を
集めたふたりの投稿者がいた。

ひとりはホームレス歌人公田耕一。彼に関しては三橋喬『ホームレス歌人
がいた冬』で、その足跡を追う挑戦をしている。

そして、もうひとりが本書の著者である郷隼人。殺人と殺人未遂で刑務所
に収監されている獄中歌人である。しかも、そこはアメリカの刑務所だ。

本書の前に歌集が出ているのだが、そちらは未読。本書はアメリカの
刑務所での獄中記なのだが、「これ、本当に刑務所か」と思うくらいに
自由である。

いや、確かに刑務所なんだよな。でも、全編に流れる軽さはなんだろう。
アルカトラズやシン・シンのような最重要警備の刑務所ではないから
かもしれないが、庭に歌壇を作ったり、房内で料理したり。

アメリカの囚人には日本のインスタント・ラーメンが人気だとか、その
調理法なんかは面白かったけど、日本の刑務所に比べると結構、
自由そうなんだよな。

殺人と殺人未遂で終身刑という重い罪を背負いながら、自身の犯した
罪に関しての言及はほとんどない。だから、内省や懺悔の言葉もない。

タイトルに比して内容が薄っぺらいんだな。短歌もいくつか掲載されて
いるが、これも心に響かなかった。歌のいい・悪いは分からないけれど、
ホームレス歌人公田耕一氏の歌には心を鷲掴みにさえたのだけどな。

娑婆ではメキシコ人を使っていたのに、刑務所で歳若いメキシコ系の
職員に命令されることに我慢ならないとか、少々差別的な部分も
見受けられる。

センセーショナルで売る幻冬舎だから、内容が充実してなくても
仕方ないのかもな。それにしても残念過ぎる内容だった。

「いつか釈放になって国外追放で帰国できるかもしれない」。夢を見る
のはいいのかもしれないが、自身の罪について向き合っているのか
疑問が残った。