命より重い名誉なんてない

昨夕、トンガ国王の戴冠式にご出席していた皇太子ご夫妻が
帰国した。妃殿下は2年ぶりの海外公務。

あの時のデレンデレンシワシワ・ドレスよりはよかったけれど、
もう少々涼しげなデザインに出来なかったかなぁ。

トンガに行けたんだから次は赤十字の大会にご出席になられたら
どうだろうか、妃殿下。

『名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち』(アイシェ・ヨルナ
 朝日選書)読了。

女性が、尊厳も人権もないように扱われる地域がある。昔々の話
ではない。21世紀の現在でも、女性は男性の所有物として扱われる
のが当然と考えられている世界がある。

中東や中近東、アジアの一部で、「正しい道」を踏み外した女性たちが
肉親の男性の手で殺められる世界がある。

ある少女は市場で異性と言葉を交わしただけで喉を掻き切られた。
ある少女はテレビ局に電話をしただけで父に撃ち殺された。

華族の名誉」。それは女性の命に優先する。トルコで起こった「名誉の
殺人」についての秀逸なルポルタージュが本書だ。

イスラム圏の女性たちがいかに虐げられているか。被害者である女性
側から語られた作品はいくつかある。本書は被害者側でなく、肉親の
女性を手に懸けた男性へのインタビューを元に、「名誉の殺人」が
行われた経緯を綿密に追っているところが異色だ。

問題は宗教だけにあるのではないと思う。共同体が男たちを殺人へ
向かわせるのではないだろうか。

イスラム圏のみではなく、どんな宗教を持とうが、どんな共同体に
属していようが、「悪い噂」が広まるのは早い。例え、人の口の端に
「不道徳な女」と名前の挙がった女性が、実際には潔白であった
としても男性たちは「名誉の殺人」を実行しなければ周囲から
軽蔑されるのだ。

華族の名誉を守る気概もない男だ」と。

本書にもそんな例がある。周囲から「あばずれ」と噂された少女が
肉親に殺害された後、司法解剖したところ純潔を保っていたことが
判明している。それは少女の美しさへの嫉妬から生まれた根も葉も
ない噂に過ぎなかったのだが…。

母を、姉妹を、娘を、手に懸けることでその場では家族の名誉は
守られたかもしれない。だが、手を血で染めた男性たちは現行法
で「殺人者」として裁かれ、刑務所に収監され、残された家族は
バラバラになることもしばしばだ。

そして、犯罪者として収監された男性たちは悪夢にうなされたり、
後悔の念に苛まれる。

命より重いものなどないと思う。だが、男性たちは命と名誉の間
で板挟みになっているのではないだろうか。母を、姉妹を、娘を、
自身の手で殺めて幸せになれるはずなんてないんだもの。

家族の手で殺される前に自ら命を絶つ女性も多いと言う。痛いよ、
胸が。

「女に生まれて喜んでくれたのは 菓子屋とドレス屋と女衒と
女たらし」と歌ったのは中島みゆきだった。「娘は災厄をもたらす」。
そんな風に言われる地域がなくなる日は来るんだろうか。

尚、妹を手に懸け殺人罪で服役している兄は、刑務所内の農園の
道に妹の名にちなんだ「ひな菊」を植え、育てていると言う。