確かにスウェーデン史上最悪だ

「訪問期間が一緒になるから、向こうの日程ずらしてくれない?」

国のトップが訪米中の中国が、同じく訪米中のローマ法王の日程に
関して注文をつけたとか。

法王猊下に対してなんたる無礼な。勿論、アメリカは「は?何、寝言
言っているの?」と請け合わなかったとか。当然だろうな。うん。

『トマス・クイック 北欧最悪の連続殺人犯になった男』(ハンネス・
ロースタム 早川書房)読了。

少年に対するわいせつ行為、刺傷事件、ずさんな計画による銀行
強盗事件を起こして精神病院に出入りしていた男が、ある日、突然、
セラピストによる面談中に重大な告白を始めた。

30人を殺害し、8件の殺人事件で有罪判決を受けたのはトマス・
クイックを名乗る42歳の患者。本名はストゥーレ・ベルグワール。

セラピーのなかで次々と語られる犯行はスウェーデン国内のみならず、
ノルウェーフィンランドにも及んだ。

14歳から断続的殺人を続けていたというトマス・クイックは、スウェーデン
史上初の連続殺人犯だ。8件の事件で有罪が確定し終身刑を言い渡され
た10年後、クイックは著者との面会で切り出す。

「自白はすべて嘘だった」。

そこから著者の、事件の検証が始まるのだがこれが粗製濫造される
下手なミステリーよりも面白い。

自白はすべてセラピーのあだいに行われ、それに伴う取り調べはひとり
の主任捜査官に委ねられ、捜査資料に含まれた実況見分の様子から
は検察官が巧みに犯行現場に誘導する言動が読み取れた。

捜査側の都合にいいように書き換えられた調書、明らかに抗不安剤
依存であろう姿が納められた実況見分のビデオ。すべてが矛盾だらけ
だった。

FBIの元心理プロファイラーじゃなくても、クイックの自白が不自然である
ことに気付くと思うんだけどね。

連続殺人犯と言えばテッド・バンディやジョン・ウェイ・ケイシーに代表
されるアメリカだが、彼らが対象にした被害者には一定の基準があった。
だが、クイックの被害者には少年もいれば少女もおり、中年のカップ
までいたのだもの。

犯行に一定のパターンもなく、共犯者として名前を挙げられて人々は
一様に犯行を否定し、クイックの家族は彼のアリバイまで証言している
というのに、スウェーデンの司法当局は彼に有罪の判決を下している。

例え本人の自白通りに犯行が行われていたにしろ、嘘の自白に基づい
た冤罪だったにしろ、スウェーデン史上最悪なんdなよな。

有罪とされた8件の事件、捜査の過程でクイックの自白の矛盾が明らか
にされていたのなら真犯人の捜査は続けられていたのかもしれないの
だものね。

長い精神病院での生活の中で、セラピストから重要な患者だと思って
もらいたかった。そんな思いから次々と自白に及んだクイックの心情
は分からないでもないが、クイックを取り巻く人たちが皆、一様に有罪
の方向に進んで行ったのが怖い。

尚、クイックは自白の撤回により殺人の罪も白紙にされ2014年に収容
されていた精神医療施設から釈放されている。

本書からは調査報道ジャーナリストである著者の執念が結実して
るのだが、残念ながらクイックの釈放を見ずに2012年に病死して
いる。秀逸な犯罪ノンフィクションを遺してくれたことに感謝だ。