革命を逃れて日本へ

「私にとって吉田(昌郎)さんは戦友でした」

東日本大震災発生時に首相であった菅直人はこんなことを
言っているのだが、当時の福島第一原子力発電所の所長
であった亡き吉田氏の捉え方は違ったようだ。

「(首相を)辞めた途端に、あのおっさんがそんな発言をする
権利があるんですか」
「あのおっさんだって事故調の調査対象でしょう。辞めて、自分だけの
考えをテレビで言うというのは、アンフェアも限りない」

うぷぷぷ。笑い事じゃないが笑ってしまう。菅直人ばかりではない。
当時の民主党政権を「アホみたいな国のアホみたいな政治家」と
ばっさり。

あぁ。やっぱり亡くなってしまったのは残念だ。この人の話をもっと
知りたかった。

『悲しみのマリア 上』(熊谷敬太郎 NHK出版)読了。

主人公のマリアは実在する白系ロシア人女性。東京清瀬市
病院理事長・武谷ピニロピ。

ロシア帝国が誇るバルチック艦隊での勤務経験もある海軍将校で
ある父は、革命の嵐が吹き荒れるモスクワを後にし妻と一緒に
極東に逃れる。

帝政ロシアの復活を願い革命軍に抵抗するも、最後の皇帝は既に
虜囚の身。その皇帝ニコライ二世の身辺警護に当たったことにより
革命政府から追われる身となる。

危機に瀕した彼と妻を救ったのは懇意にしていた日本軍人。極東
から列車で中国へ逃れる行程で生まれたのが本書の主人公で
あるマリアだ。

ハルピンの修道院に預けられ、父か母が現れるのを待つ日々。
修道女になるしかない瀬戸際で日本への亡命が叶う。

一家が居を構えたのは日本への亡命を手引きしてくれた軍人の
故郷である会津若松。ブルーグレイの瞳に金色の髪を持った少女
は、慣れない日本で成長していく。

上巻はマリアが女医となり、東京都清瀬市に開業するまでを描く。
ロシア革命を生き抜いた両親というだけでかなり波乱万丈。しかも、
亡命先が日本である。

日本語を習得するだけでも苦労が多かったろうが、日本で女医に
までなるのは並大抵の苦労ではなかったろう。

なのに、浅いんだ。なんだかとんとん拍子に話が進んでいやしないか。
モデル小説なのは分かる。でも、もうちょっと深みが出せないかな。

ロシア革命なんてバイカル湖の悲劇なんてのもあったんだし、もう
ちょっとロシアの状況を描いても良かったんじゃないかな。

マリア自身は革命の波に晒されてはいないけれど、ロシアがどれだけ
激動の時代だったが分かると思うのだけれど。

う〜ん、下巻に期待…かな。