オマージュではなくコラージュ

『永遠の0』(百田尚樹 講談社文庫)読了。

  • _-

↑こんな感じなんですけどね、私の感想は。でも、顔文字だけ
じゃ伝わらないので、一応感想を書いてみる。

主人公の「ぼく」は姉からアルバイトの誘いを受ける。自分たち
姉弟が祖父と呼ぶ人のほかに、もうひとりの祖父がいる。終戦
間際に特攻で命を落としたもうひとりの祖父・宮部久蔵について
調べたい。その手伝いをしてくれないか。

そんな始まりなんだけど、物語の設定と展開は浅田次郎『壬生
義士伝』、特攻隊に関する喜寿坂井三郎大空のサムライ
を借用している。本書の著者曰くこの2作品への「オマージュ」
なんだそうな。

オマージュの域に達していない「パクリ」って言いたいけど…。

主人公のぼくと姉は太平洋戦争当時の宮部を知る人物に次々と
会い、話を聞く。80歳前後の老人たちの記憶のなんと鮮やかな
ことかっ!いくつもの戦闘シーンが独白形式で克明に語られる
んだわ。

現代の主人公たちの描写と、この戦闘部分の描写。明らかに
クオリティが違う。読んでいる途中で最終章のあとに掲載され
ている主要参考文献を確認して確信。

戦記物を多く発行している光人社の出版物が大半を占めている。
参考文献の気に入った部分を切り張りしてるだろ、これ。

そっちこっちから拾って来たノンフィクションの間に、狂言回し
である姉弟の部分の創作を挟んだだけって感じ。

その創作部分も、人物の作り込みが浅いんじゃないか。特に
姉と、姉の仕事に絡んで出て来る新聞記者・高山。

姉が登場する部分では「お前は小学生か」と何度突っ込んだ
ことだろう。大体、ジャーナリストを目指すフリーライターなの
に、戦争に対する知識が皆無って…。ありえん。

高山が「特攻はテロリストと一緒」という持論を滔々と述べる
部分に至っては、「こいつ、本当に新聞記者か?」って感じ。

で、肝心の「生きて帰る」と言っていた宮部が、どうして終戦
間際になって特攻を志願したのかはうやむやに終わっている。

何故、出撃間際になって宮部が登場する機の交代を申し出た
かなんてはっきりと伏線が張ってあるのに気付かない姉弟
なんだよ、このいい加減な人物設定。

文庫で約600ページ。この分量の3分の1で済んだんじゃないの
かなぁ。

「桜花」や「回天」の話も出て来るので、それなりに参考には
なるのだが、特攻隊を題材に安っぽいエンターテイメントに
しちゃったね。

この作品を読んで、映画を観て感動した人には大変申し訳
ないが、まったく納得のいかない作品だった。

こりゃ、「オマージュ」ではなく多作品の「コラージュ」だよ。