スオミの英雄を描いたにしては中途半端

昔々、岩波文庫には表紙カバーはなくパラフィンがかかっていた。

昔々、中公新書にはビニールカバーがついていた。

歳若い知人たちに言っても信じてもらえないんだよな。ちょっと古本屋
の棚を覗いて来て欲しいわ。本当なのだから。

『白い死神』(ペトリ・サルヤネン アルファポリス文庫)読了。

資料によって人数が若干異なるようですはあるが、500人以上である
ことには変わりはない。ひとりの狙撃手が倒した敵兵の人数である。

フィンランドの伝説的狙撃手シモ・ヘイヘ(実際はシモ・ハユハユと発音
する方が近いらしい@在日フィンランド大使館)。上記の人数は狙撃銃
によるも人数であり、サブマシンガンでのカウントは含まれていない。

彼が活躍したのは冬戦争だ。第二次世界大戦勃発から3か月目に
ソ連軍がフィンランドへ侵攻して始まった戦いだ。シモ・ヘイヘはその
冬戦争の一部である「コッラの戦い」に参戦し、対するソ連軍から
「白い死神」として恐れられた。

本書は戦後、沈黙を保っていたヘイヘへのインタビューに成功した
フィンランドの戦記作家による作品とのことなので期待した。

だが、少々中途半端んな感じなんだな。話は勿論、ヘイヘを中心に
して進んではいるものの、他の人物のエピソードを盛り込み過ぎて、
ヘイヘの伝記にしたかったのか、コッラの戦いの戦記にしたかった
のか焦点がぼけてしまっているのが残念だ。

それでもやはりヘイヘは凄いわ。スコープなし・アイアンサイトのみで
これでけの人数を狙撃している。しかも「冬戦争」の名の通り、時期は
厳寒のフィンランドの冬である。平均気温は−20℃〜−40℃の野外
で、白の偽装服に身を包んで雪の中でじっと相手を狙うのだもの。

元々、農家の育ちで農業の傍ら狩猟を行っていたので射撃の腕は
狩猟で磨かれたようだ。その腕を買われて予備役兵長として招集
され、祖国を守る為に雪中で敵兵を狙撃したんだよな。

尚、ヘイヘも参戦したコッラの戦いは攻めるソ連側は4個師団に1個
戦車旅団、対する守るフィンランド側は1個師団。ヘイヘの所属した
部隊においては32人の陣容でソ連軍4000人を相手にし、戦線の
後退を許さなかった。

ヘイヘ以外にもフィンランド第二次世界大戦で何人もの傑物を
輩出しているのだよな。日本ではこの時期のフィンランドに関する
作品が少ないのが寂しい。フィンランド語が読めたらいいのにな。

尚、スオミの英雄は冬戦争終結間際に負傷して戦線離脱。その後、
戦場に戻ることなく2002年に93歳でこの世を去った。

※「スオミ」とはフィンランドフィンランド語読みである。