今に受け継がれるグランド・デザイン

後藤新平 ──大震災と帝都復興』(越澤明 ちくま新書)読了。

後藤新平に興味を持ったのは、作家・星新一が父である一(はじめ)の
ことを書いた作品を読んでからだった。

しかし、興味深い人物は他にも何人もおり、ついつい後回しになって
いた。

薩長閥が多い中央政界にあって、地方の医者から中央の政治家に
登り詰めた後藤新平の生い立ちと、彼が関わった台湾や満州
都市計画を経て、関東大震災後の帝都・東京の復興計画までを
描く。

彼が考えた東京の復興計画は確かに「大風呂敷」なのだ。だが、
その「大風呂敷」は時が経って検証すれば首都である東京という
街には必要なものばかりなのがわかる。

火災による家屋の延焼を食い止める広い緑地帯と川沿いの公園。
幅員を広げた主要道路。下町の区画整理

台湾と満州での経験を生かしたグランド・デザイン。それには膨大な
予算も必要だった。

新しい東京が生まれる。しかし、政党に属さずに有力政治家となった
後藤は古参政治家たちの嫉妬の対象になる。政界につきものの
足の引っ張り合いだ。

最低限の計画が実現したものの、後藤がやり残した東京の都市計画
は現在も宿題となっている。

今、東京都では環状2号線の整備が進められている。中途半端に
作られた環状道路の延伸計画なのだが、この道路は元々、後藤が
帝都復興の計画の中で提案していたものであることを知ってびっくり。

街の復興はどうあるべきなのか。東日本大震災後の復興の参考に
なるのではないか。

それにしても、著者の後藤新平に対する「愛」は並大抵ではない。
まるで後藤への長い長い恋文を読んでいるようだった。