武人の矜持

どうやら増税らしい。ふーん、そういうことか。財務省の言いなりですか、
そうですか。

ローマ史を読んでいるから記しておこう。初代皇帝アウグストゥスが実施
した税制は、「広く浅く」徴収し、その範囲内で国の歳出を抑えるものだった。
それが帝国末期になると、まずは予算ありきで税額が決まるようになる。
これも帝国が衰退する一因であった。

先の震災の復興にお金がかかるのは分るさ。でも、増税前にやることある
んじゃない?国会議員の数を減らして歳費も削減するとかさ。

ローマ人の物語41 ローマ世界の終焉[上]』(塩野七生 新潮文庫)読了。

「お前はそれでもローマ帝国皇帝かっ!」

読みながら何度突っ込んだことだろう。キリスト教を国教としたテオドシウス帝の
死後、帝国を引き継いだのはアルカディウスとホノリウスのふたりの息子なのだが、
このふたりには軍事・政治の才能どころか、皇帝としての品格も何もない。

「帝国を分担して統治せよ」がテオドシウス帝の遺志だったのだが、キリスト教
影響濃厚な東に対し、首都ローマを西側は未だ異教の都。これが「分担」では
なくローマ帝国の「分割」に繋がって行く。東西ローマ帝国の誕生である。

本巻がメインで取り上げているのは西ローマ帝国。この西側の皇帝がホノリウス
なのだが、僅か10歳で帝位に就いたことを差し引いたとしてもその情けなさには
怒りさえ覚える。

ティベリウス帝が確定し、トライアヌス帝とハドリアヌス帝が再構築した帝国の
防衛線は機能しなくなって久しいが、蛮族の侵攻が頻繁になれば一度も戦場
に臨まないどころか、皇宮を置いたミラノから逃げ出すことばかり考えている。

50歳まで文筆生活をし、思わぬ帝位に就いたクラウディウス帝でさえ現在の
イギリス、ブリタニアまで遠征しているというのに。

こんな情けない息子に父テオドシウスが補佐として付けたのが蛮族出身の
武人スティリコである。皇宮での安楽をむさぼることしか知らぬ皇帝に代わり、
蛮族を撃退し、帝国の安全を守る為にその蛮族と同盟を結ぼうとする。

これが元老院と皇帝側近、そして自らが率いたローマ軍の兵士たちの不興
を買う。勝利に酔うこともなく、帝国の防衛に心を砕いた武人は「売国奴
呼ばわりをされる。

そんなスティリコに皇帝軍と事を構えるのであれば、あなたの側につこうと
申し出たのは蛮族出身の傭兵や、元奴隷の兵士たちであった。泣けるじゃ
ないか。

出身は蛮族であってもテオドシウス帝に抜擢されて以降、「ローマの武人」
として生きて来た男は、ローマの武人として破滅を選ぶか。これまで守って
来たローマに対して兵を挙げ蛮族に戻るかの選択を迫られる。

選んだのはローマ人としての死であった。皇帝はスティリコに会うことも
せず、高級官僚を通して彼に死罪を宣告した。国家反逆罪の罪名の下に。

スティリコ亡きあと、西ローマ帝国は蛮族によってローマ劫掠に遭うことになる。

皇帝の上にキリスト教会が君臨する時代でなければ、元老院ローマ市
から不信任を突き付けられて、命を落としていたのはホノリウスの方だった
のに…。