ミューズたちの館

新刊書店で軒並み平積みなっている『日本中枢の崩壊』の著者であり、
現役の経産省のキャリア官僚でもある人が退職を打診されているらしい。

ふ〜む。いろんなところで民主党政権への批判を繰り返して来たことが
原因なのかな。取り敢えずは我が書庫のサクラダ・ファミリアの建材に
なっている本書を読んでみるかな。

『乾燥標本収蔵1号室 大英自然史博物館 迷宮への招待』(リチャード・
フォーティ NHK出版)読了。

副題通り、正に「迷宮への招待」である。来館者が目にする展示室の
奥深くに生息する研究者の摩訶不思議な生態が綴られている。

これが非常に楽しい。著者自身の専門は三葉虫なのだが、なかなか
どうして。人間を観察・分析する目にも鋭さがあり、ユーモアに溢れて
いる。もしかしたら展示室の貴重なコレクションより、来館者の目に触れ
ないところにいる研究者とその研究室を見学する方が興味深いかも。笑。

まぁ、そんな話ばかりではなく真面目な博物学論もあるし、博物館が辿って
来た歴史も詳細に述べられている。

以前は科学界の権威が館長に迎えられた自然史博物館にも、時代の波と
共に政治が持ち込まれ行政に強い人物が館長職に就くようになった。研究者
もまたしかり。

論文も発表せずに世間からは非生産的と思われる研究に没頭する者は
博物館を追われ、新たに登用されるのは研究費の調達に手腕を発揮する
者になる。財政を気にすることなく、自分が追い求めるテーマを追求出来た
時代は去ったようだ。

しかし、著者は言う。博物館の奥深くで行われている研究こそ生物多様性
貢献し、過去から未来を見ることが出来ることなのだと。

巨大迷路の奥では今日も千年一日のごとく、専門分野に突出した才能を
有した者たちがミューズの腕に抱かれてこつこつと分類・整理に励んでいる
ことだろう。

博物館という存在を改めて考えさせてくれる◎な良書だ。400ページ超の
大作だが、軽妙な語り口で中だるみすることなく読ませてくれる。