受賞記念

大宅壮一ノンフィクション賞と並んで、評価できる作品が多い
ので講談社ノンフィクション賞は毎年楽しみにしている。

まあ、大宅壮一ノンフィクション賞猪瀬直樹に受賞させて
しまってから少々、疑ってかかっているのだが…。

さて、講談社の方。今年からは私が敬愛する本田靖春の名を
加えて、講談社本田靖春ノンフィクション賞に名称が変更になり、
昨年、読了した松本創『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本
変えた闘い』(東洋経済新報社)が受賞した。

これはいい作品だった。受賞記念で、以前に挙げた読後感を
再掲載する。

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建物の1階部分にひしゃげた車両がめり込んでいる。脱線事故とは
言え、これはどういう状況なのか。2005年4月25日に発生した
福知山線脱線事故のニュース映像だ。しかも、テレビ画面に映し
出されていた車両は2両目だった。

この事故で妻と妹を失い、次女が重傷を負った都市計画コンサルタント
淺野弥三一氏が巨大組織JR西日本を相手に組織としての原因追求と
安全対策の改善を求めた記録が本書である。

淺野氏は被害者遺族であり。被害者家族である。その人が被害者感情
優先するのではなく、組織事故としてJR西日本に真摯な対応を求める。

誰もが出来ることではないと思う。大規模事故に自分が、または身内
が巻き込まれたのなら、私だったら被害者感情が先に立ち安全の確立
を求めることまでには考えが至らないだろうと思う。

国鉄の分割民営化後のJR西日本が優良企業となって行く過程、その
なかで育まれてしまった上に物が言えぬ組織風土。それをJR西日本
自身に見つめ直されるのには、事故後に社長に就任した山崎正夫
の登場を待つしかなかった。

残念ながら山崎氏は自身の不祥事と福知山線脱線事故での在宅起訴
で社長の座を去ることになったが、彼がいたことで淺野氏たち被害者
組織との対話の実現への突破口になる。

あの事故を運転士個人の責任として済ませてしまうのは却って簡単なの
だろう。では、何故、ヒューマンエラーが起きるのか。その背景を洗い
出した記録として本書は貴重な作品だと感じた。

一貫してJR西日本の組織的責任を追及し続けた淺野氏は勿論のこと、
JR西日本関係者の多くに取材し、丹念に描かれた良書である。