博士になったプリンセス

少し前から派遣先で「このままじゃ純粋な日本人がいなくなる」と
言っているスタッフがいる。「純粋な日本人の定義を教えて」と
突っ込んでみた。

返って来た答えは「今の日本人」。なんじゃ?そりゃ。そもそも人類
発祥の地は日本ではありません。遠くアフリカの地から気の遠くなる
ような時間を掛けて日本に辿り着いたんだが。

こういう発言。なんだか嫌悪感が湧くんだよな。はぁ…。

『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(彬子女王 PHP研究所
読了。

2012年6月。ヒゲの殿下こと寛仁親王殿下の容体急変をニュースが
伝えた。別居中の信子妃殿下までが病院を訪れたことで「これは
いよいよなのか」と感じた。そして、祈った。海外へ講演に行っている
彬子女王殿下が帰国するまで頑張って下さい…と。

私のような皇室ウォッチャーだけではなく、寛仁親王殿下を取り巻く
人々皆が祈ったことだろう。祈りは通じたのか。彬子女王殿下は
父上の薨去に間に合った。

オックスフォード留学は子供の頃から父上に聞かされていたこと
だった。学習院大学時代に、そして博士号取得の為にと5年に
渡る留学期間を振り返って綴られたエッセイが本書である。

とても素敵なエッセイなのだ。雑誌等によく寄稿されているのだが、
今まで目にした文章も読みやすく、すとんと頭に入って来る。それ
をまとめて読める幸せ。

読み手をまったく飽きさせない構成、軽妙な文章、皇族でいらっしゃる
ことを忘れさせるノリ突っ込み(?)。気の利いた言い回しなんてない
のだが、続きが気になってページをめくる手が止まらない。

日本とイギリスの風土や習慣の違い。特に電車やバスの運行に
関しては思わず電車の中で笑い声を漏らしてしまいそうになった。
いくら電車内で爆睡していたからって、運行中止になった車内に
取り残され、あわや車庫行き…なんて。

「よく考えてみれば、「彬子女王殿下、寝過ごしてJRの車庫で
発見!!」なんて、日本だったら大きなニュースになったに違い
ない。」

女王…日本国内ではお気を付け下さいね。

ご本人も思いもしなかった、エリザベス女王とふたりきりでの
ティータイムに招待されたて緊張しまくって何をお話ししたのか
覚えていなかったり、留学先で仲良くなったカップルのお子さんの
名付け親になったり。楽しい話満載。

ただ、それだけではなく博士号取得までの辛く苦しい過程も綴られて
いるんだが、文章の上手さなのか読んでいて辛くなるよりも「彬子様、
踏ん張ってっ!」とエールを送りたくなった。あ、送っても既に博士課程
終了されているんですけどね。

皇族という身分だけではなく、彬子女王殿下はお人柄も良いので
あろう。そうでなけれは、留学終了後も交流が続いている人たちが
英国にいるはずないもの。

最終章に亡き父上の思い出を綴った章がある。これは泣けた。
寛仁親王殿下薨去後、ご愛用のお財布から彬子女王殿下が
幼稚園の頃に折り紙で作り父上にプレゼントした「おとうまの
おさいふ」が出来たなんて…。これで泣かずにどうしよう。
そして、最後の一行。

「柏さま、「多謝」。雪より。」

ダメよ〜、彬子様。私、こううの弱いんです。ボロボロ泣いちゃった
じゃないですか。本当にお父様っ子なんだよね、彬子女王殿下も
妹の揺子女王殿下も。

「柏」は寛仁親王殿下のお印、「雪」は彬子女王殿下のお印
である。ついでながら母上・信子妃殿下は「花桃」、揺子女王
殿下は「雪」である。

彬子女王殿下、現在は京都在住。日本文化の研究者としての
生活を送っていらっしゃる。いつだったか、子供たちに勾玉の
作り方を教えていらっしゃったご様子をテレビで拝見した。

彬子女王殿下も子供たちも楽しそうだったなぁ。教育も、教養も
あるお方である。

尚、本書のタイトルである「赤と青のガウン」はオックスフォード大学で
博士号を取得した者だけが袖を通すことを許されるガウンである。