毒の海、毒の川、毒の空

中国はテロ多発だし、タイじゃ遂に軍部によるクーデター。ウクライナ
は益々混乱。ヴェトナムでの反中国デモは少々落ち着いたようだが、
最近、あっちこっちがきな臭い。

やっぱり「平和」って大事だわ。

四大公害病 水俣病新潟水俣病イタイイタイ病四日市公害』
(政野淳子 中央公論新書)読了。

慰霊碑の先に広がる水俣の海青くして静かなりけり

今年2014年の歌会始天皇陛下は、2013年10月に熊本県
水俣市を訪れ、慰霊碑に供花した際、碑の先に広がる水俣
海を詠まれた。

静かに広がる青い海は、その昔、毒をたたえた海でもあった。
熊本県水俣市だけではない。

新潟県阿賀野川富山県神通川流域、三重県四日市市
の空。そこは毒の川であり、毒の空だった。

本書は未だに続く日本の四大公害病の経緯と、被害者と加害
企業との闘争、その後の経過までをコンパクトにまとめている。

これは私の偏見なのだが、女性の書き手はえてして感情に
走りがち。だが、本書の著者は感情を排除し、事実を淡々と
積み重ねて非常に分かり易く記述している。それだけで好感
が持てる。

日本の公害病については高度経済成長の陰で犠牲になった
との見方もあるのだろうが、イタイイタイ病なんて大正期から
その症状が確認されていたんだよな。

それが戦中・戦後のどさくさで放っておかれた。そして、一部
地域の人たちの健康よりも、企業の発展を優先した結果が
健康や命という、取り返しのつかないものを失わせた。

水俣病の患者認定については、21世紀の今になっても
解決していない。国民よりも企業に重きを置いて来た日本
の政治は、被害にあった人々が死ぬのを待っているの
じゃないか。

それぞれの公害について、原因企業は賠償金の支払い
こそすれ、企業犯罪には問われていない。

「人の死を金であがなうことはできないのである。ところが、
企業はすべて金銭で解決したような感覚を持っている。
(中略)これからは企業の証拠いん滅も巧妙になり、ます
ますその度を加えるだろう。しかも民事という限られた
ワクの中だけで、工場のヘイの外から素手でこれをやり
とげようとすれば、長い年月と血のにじむような苦労を
必要とすただけではなく、その間にも公害はどんどん
進行して、多くの人の生命や健康がうばわれていく。
その間、国が漫然と拱手傍観することが、いちぢるしく
非条理なことに思えてならないのである。」

四日市公害裁判前に、原因企業を摘発した四日市海上
保安部の田尻宗昭の言葉は、今にも通じるはずである。

そう。福島第一原発事故である。

本書はデータも豊富に掲載された良書だ。