言葉は人に仕え、人もまた言葉に仕える

沖縄県にある米軍の北部訓練場の約半分が日本に返還される
ことが決まった。沖縄県の本土復帰以降、最大規模の返還に
なる。

だが、引き換え条件はヘリの発着場を作ること。その場所となる
高江では連日抗議が続き、先般は大阪府警の機動隊員から
建設に反対する人に対して差別的発言も飛び出した。

結局は代わりの土地を差し出しただけだよね。しかも返還される
土地もアメリカ軍に原状回復の責任はないんだよね。

いつまで植民地ですか?

『愛のための100の名前 脳卒中の夫に奇跡の回復をさせた
記録』(ダイアン・アッカーマン 亜紀書房)読了。

奥様の名前はダイアン、職業は作家。15歳年上の旦那様の名前は
ポール、大学教授で作家。ふたりとも仕事で言葉を扱うのは勿論、
普段から巧みに言葉の海を泳ぎ、戯れ、言葉遊びを楽しんでいた。

しかし、ふたりの生活はある日を境に一変する。感染症で入院して
たポールに襲い掛かったのは脳卒中。右半身にマヒ、視界の欠損、
そして何よりも愛した言葉をポールから奪った。

本書は奥様であるダイアンが、ポールの脳卒中の発症からの5年間
を綴った闘病と回復の記録である。

伝えたいことがあるのに言葉が出て来ない、表現することが出来ない。
ポール自身のもどかしさもそうだが、ポールが何を言いたいのか理解
しようと務めながら途方に暮れるダイアン。どちらも辛い。

だが、ポールは徐々に言葉を取り戻して行く。それは脳卒中を起こす
以前のポールとは違うのだけれど、ポールはポールなりのユニーク
な表現で思考を、気持ちを言葉にし、言葉を繋いで文章にするところ
まで回復する。

奥様のダイアンもただ献身的だったわけではない。彼女にも作家と
しての仕事がある。一時はポールの介護の為に、自分の為の時間
を諦めなければいけないのかと絶望の淵に追い詰められるのだが、
入院中に出会った看護師の女性を在宅看護師として通ってもらう
ことで仕事を続けることが出来るようになる。

ポールを根気よく支えたダイアンもだが、この看護師の女性がまた
素晴らしい。ふたりにとって欠くことの出来ない存在になる。

卒中前のポールはダイアンに様々な愛称をつけていた。卒中後には
そんな愛称の数々も忘れてしまったけれど、新たな愛称を考えて欲し
いとのダイアンのお願いに応えてポールは100日間、毎日ひとつずつ
愛称を考える。

それが本書のタイトルになっている『愛のための100の名前』。その
一覧が巻末の掲載されている。「キンポウゲの詩人」「荘厳な朝の
妖精探偵」「夢見るホビット」等々。

これが決まりきった言語療法よりも効果的だった。脳の機能はつく
づく不思議だと思う。回復は難しいと思われても、損傷した部分を
補うように新たなネットワークを築き上げてしまうのだから。

それが証拠に、ポールは発症後5年の間に新たな小説を執筆する
までに回復しているのだから。しかも、ダイアンが手探りで始めた
言葉を取り戻す訓練が、最新のリハビリ方法に合致していたのも
驚きである。

諦めず、辛抱強く、それでも時には心が折れそうになりながらも
言葉を取り戻すための努力を続けたご夫婦の、苦しくも温かい
物語だった。

この出版社の翻訳ノンフィクション・シリーズは秀逸な作品が多く、
本書も優れたノンフィクションなのだが、本書では校正の甘さが
気になった。「袋工事」ってなんだよ〜。「袋小路」の間違いなの
だろうけれど、ここでしばらくつっかえっちゃったよ。