女神(ミューズ)のいた時代

定数削減まで国会議員の歳費って削減するはずじゃなかったのか。
なんだ?5月分給料から月額26万円アップって。

年間で421万円の上昇。この半額が年収って人もいるのにね。
プンスカ。

『おそめ 伝説の銀座マダム』(石井妙子 新潮文庫)読了。

「血の通った人間というより、何かの精のようだった」

京都の花街にある店で、友人が祇園のバーで見掛けた
という美しい老女。過去に「おそめさん」と呼ばれた老女は、
川口松太郎の小説『夜の蝶』のモデルともなった、有名な
バーのマダムだった。

会ってみたいと、著者は思う。表舞台から「おそめさん」が姿を
消して数十年が経つ。それでも、会ってみたい。話を聞きたい。

著者が「おそめさん」との邂逅を果たす、この序章だけでがっし
と心を鷲掴みにされた。

京都と銀座にバー「おそめ」を開き、飛行機で二つの街のを
行き来したことから「空飛ぶマダム」と言われた伝説のマダム。

その生涯を追う作業は決して楽ではなった。著者が念願叶って
会うことが出来た「おそめさん」こと、上羽秀は穏やかだが寡黙
な人だった。

秀さんご本人から話を引き出すことが難しかった為か、彼女を
取り巻く人々やモデルとなった作品、週刊誌等の報道から
ひとりの女性の反省を描き出している。

文壇や政財界、映画界の多くの男たちを魅了し、同性からは
嫉妬のまなざしに晒され、それでも天性のものなのか誰の
悪口も言わず、流れに任せたように見えながら強靭な芯を
持った女性だった。

商売も損得ずくではない。お客さんに気持ち良く遊んで欲しい。
そして、そんなお客さんたちの相手をして飲んでいるのが楽し
くて仕方がない。

天真爛漫とでもいうのだろうか。世間のことには疎く、金銭に
もこだわならい。華美に着飾ることはしないが、気前はいい。

本書にはいくつかの写真が掲載されている。確かに美しい
人ではあるが、絶世の美女ではない。だが、本書を読み進み、
上羽秀という女性を知るごとに、奇跡的な魅力を備えた人
だったのだろうなと感じた。

昭和30年代の銀座で、「そそめ」と覇を競った「エスポワール」
のママ・川辺るみ子や、秀の母・よしゑ、妹・掬子、娘・高子等、
秀を取り巻いた人々も興味深い。

そして何よりも本書に惹きつけられるのは、著者の上羽秀と
いう女性に向けられた深い愛情だろう。

食事を終え、迎えの車を待つ秀と著者。その夜の情景を描いた
ラストシーンは、読み終わってじわじわと胸に迫り、切なさと
温かさの余韻に包まれた。

本当なら一気に読んでしまいたかったのだが、読み終わるのが
惜しくて少しずつ読んだ。こんな作品、久し振りだ。