毒蛇被害は現場で起きてるんだっ

先日、3年以上の拘束から無事に解放され帰国を果たした
安田純平氏。

帰国に利用したトルコ航空が「航空券代は結構。好意だ」と
安田氏から受け取らなかったとか。

く〜〜〜〜、格好いいぞ、トルコ航空

『完本 毒蛇』(小林照幸 文春文庫)読了。

これはひとりの医師が蛇毒と真剣に向き合った記録である。

東京大学付属伝染病研究所で毒蛇ハブの血清製造をしていた
沢井芳雄は、同じ研究所の仲間であり寄生虫の研究者から
奄美大島にハブ被害の記録が大量に保管されていることを
聞かされる。

太平洋戦争中、ラバウル島に軍医として赴いた経験のある沢井は、
奄美大島ラバウルを重ね、「南の島に行ってみたい」との思い
にかられる。

昭和30年代。奄美大島に渡った沢井は、研究所の中で血清製造だけ
を行っていたのでは分からなかった実際のハブ被害の様子を目の当
たりにした他、実はハブ被害の多い地域では血清への不満がある
ことを知る。

この奄美大島での見聞が、沢井を蛇毒研究に駆り立てた。確かに
血清は死亡率を減少させたが、それだけでは不足だ。血清の改良を
行うと共に、血清療法の限界を感じていた沢井は、予防ワクチンの
開発をも手掛ける。

そして、沢井の興味は日本国内のみにとどまらず、世界へも向けられ
る。

熱い作品である。行間から沢井が蛇毒に傾ける熱意と、著者の沢井と
その研究への熱い思いが読み手にも伝播する。

幸い、私の生活圏ではアオダイショウやシマヘビを見かけることは
あるが、毒蛇を見かけることはない。だから、その被害の凄惨さは
本書を読むまでまったく知らなかった。

毒蛇と一括りにしても、その毒性で人体への被害も異なるのだが、
出血性の毒にしろ、神経性の毒にしろ、本書で詳細に綴られている
毒蛇被害の様子に怖気を振るう。

こんなに暑い医師がいたからこそ、蛇毒被害は最小限に留めるよう
な処置が出来るようになったのだね。

沢井芳雄。もっともっと、広く知られていい医師であり研究者だと
思う。

尚、私の不真面目は頭は本書に引き込まれている間にも「毒蛇は
どく(こ)じゃ」とか、「I have a Hub」なんてくだらない
ことを考えていた。沢井先生並びに著者にお詫び申し上げる。
誠に申し訳ございません。