今上陛下を並ばせた男

『殿下の料理番 皇太子ご夫妻にお仕えして』(渡辺誠 小学館文庫)
読了。

ふかし芋の皮の部分がお好きだった昭和天皇に、わざわざ綺麗に皮を
むいてお出しして「美味しくない」といわれたり。お皿に載せるもの
はすべて食べられなくてはいけないのに、柏餅を葉つきのままお出し
したり。

緊張しながらもいろいろやらかしていた宮内庁大膳課の料理人だった
渡辺誠氏の『昭和天皇のお食事』につづく、皇室のお食事にまつわる
エッセイの第2弾。

こちらでもまたもややらかしてました。昭和天皇崩御後、今上陛下
に2年お仕えしているのだが、お客様を招いてのとあるお食事会で
下げられた皿の上にラップフィルムがナイフとフォークの下に隠す
ように置かれていた。

ラップフィルムに包んで蒸し上げる料理で、本来であれば外してから
お出しするはずだったのに一皿だけ、そのままお出ししてしまった。
それは紀宮さま黒田清子さん)のお皿だった。

大急ぎで紀宮さまの元へお詫びに行く著者。

「いいえ、私のところでよかったです。大丈夫ですから、気にしない
でください」

紀宮さまのお言葉である。あぁ…やっぱり「ザ・内親王」だわ。サーヤ
さまは。

また、皇太子殿下にお仕えするようになった時代。某国から皇太子殿下
へ羊の丸焼きが届けられた。自宅から急ぎ呼び出された著者。お食事の
席には今上陛下、美智子皇后陛下、紀宮さまが揃われた。

「切り分けますので、みなさま、お皿を持ってお並び下さい」

著者に言われてそれぞれがお皿を持って著者の前に。陛下がお皿をお持ち
になって、あの笑顔で並んでいらしゃったのかと思うと微笑ましい。

勿論、タイトルとなっている皇太子殿下との思い出も多く綴られている。
独身時代の皇太子殿下が「このような料理は作れますか」と新聞の切り抜
きをお持ちになったとか。

本当に料理が好きで、勉強熱心で、ご自分のお仕事に誇りを持っていた
のだろうな。

雅子妃殿下が長期のご静養に入る前に大残の職を辞したのは、渡辺氏に
とって良かったのかもしれないな。ただ、45歳の若さで亡くなってし
まったのは残念だ。