この肉はどんな環境で飼育されたのだろうか

『ファーマゲドン 安い肉の本当のコスト』(フィリップ・リンベリー/
イザベル・オークショット 日経PB)読了。

脳死状態にした鶏を透明のパックに入れて吊り下げ、チューブに
よって栄養を送り込み成長させる。この鶏には羽もない。

「どうせ食肉として殺されるのだから、生きるのには最低限の能力
だけあればいいだろう」との発想から生まれたようだ。

効率よく食肉を生産する方法として提案された未来型養鶏工場(?)
の画像を目にしたのは数年前だ。気持ちのいいものではなかった。

これはあくまで提案の域を出ていないようだが、そう遠くはない将来、
現実になるのではないかと思われる。

食肉、魚、野菜、果物、乳製品。私たちが口にする食べ物は、一体
どのように育てられているのだろうか。産地や加工地のことは気に
しても、育成の過程まで気にかけてはいない。

本書は多くの国で行われている工場式農場の現状や環境に及ぼす影響
などを詳述し、ではどうすればいいのかの提案をしている。

農作物に関しては、やっぱり出たか遺伝子組み換え作物なのである。
日本国内では本格的な商業栽培はされていないが、海外から輸入さ
れる牛肉や豚肉が、遺伝子組み換え作物を餌にして飼育されている
かどうか、確かめようがない。きっと…いや、絶対餌になっている
ると思うわ。特にアメリカ産の食肉に関しては。

しかも効率よく飼育する為に抗生物質や成長ホルモンをガンガン投与
されている。

それもこれも、大量生産・大量消費社会が招いたこと。将来的には
そのツケが人間に回って来るはずなのだよね。工場式農場だって、
食糧不足を補う為に始められたはずなのに、世界では今でも多くの
人が飢饉に瀕している地域がある。

私は研究者も何でもないので、広々とした牧草地で育った牛と、狭い
檻の中で育った牛の肉に、どれだけの違いがあるのか分からない。

分からないけれど、より自然に近い状態で愛情をこめて育てられた
食肉を口にしたいと思うし、卵だって、乳製品だって、飼育方法
が明記されていれば参考にしたいと思う。

飼育する農場の方から見れば、消費者のわがままなのだろうけれどね。

ただ、「より多く」を求めて行くと、冒頭に記した未来型養鶏だって
当然になるだろうし、クローン技術の導入だってありえるだろう。
農作物は害虫や病気に強い遺伝子組み換え作物が主流となるだろう。

そうして、昔ながらの農場風景は姿を消し、肉も野菜も巨大な工場内
清算されるだけになったら?

沈黙の春」ならぬ「沈黙の春夏秋冬」がやって来るのではないか。

本書では工場式農場からの脱却を目指す試みや、イギリスでの飼育方法
表示販売、家畜の飼育方法を規制するEUの取り組みなども記されてお
り勉強になった。

惜しむらくは、本文中に出て来る参考文献の日本語訳があるのかが
明記されていないのが難点。いくつか読んでみたいと感じた作品が
あったのにな。