強行突破

「お前は既に包囲されている。武器を捨てて出て来なさい」

武器って…語源辞典のことかよ?確かに包囲されているけどね。
書庫兼自室の壁の三方は書棚だからさ。

扉の向こう側から呼びかけているのは、我が旦那である。「調べ物
する」と言っておいたはずだが…。退屈なのか?暇なのか?

放っておいて調べ物の続きをしていたら、声が途切れた。よしよし、
諦めたか。と、思ったのも束の間。

「開け〜、ゴマッ!」

今度はそれかいっ!落ち着いて調べ物も出来ぬ。仕方なく扉を開ける。
外出ついでに上生菓子を買って来たらしい。なので、お茶を淹れて欲し
かったようだ。

だったら、最初からそう言えばいいじゃん。上生菓子は私だって好物だ。

「私がオモンだったら、とっくに突入作戦でしたよ」

ええ、知ってますとも。ロシアの特殊部隊は人命よりも強行突破だって
ことは、これまでの籠城事件でよ〜く知ってますとも。

でも、私の書庫への強行突破を実行したら後片付けをするのは自分だって
分かってますかぁ?笑。

『ハウス・オブ・ヤマナカ 東洋の至宝を欧米に売った美術商』(朽木ゆり子
 新潮社)を読み始める。

欧米の有名美術館には、日本にあったら国宝ものの美術品が多数収蔵
されている。それらの美術品はどのようにして外国人の手に渡ったのか。

明治時代から第二次世界大戦までの間、海外の富豪に東洋美術の
仲介をした美術商が、本書で取り上げてられている山中商会である。

日本国内では現存する資料がなく、海外の美術館・博物館のアーカイブ
から、その軌跡を辿る。

ロックフェラーだとか、フリーアだとか、フェノロサだとか。出るわ、出るわ。
有名どころの名前が。