過信は禁物

海外のノンフィクションやルポルタージュ作品を読んでいると、おかしな
日本語表現に首を傾げることが多々ある。

これまで読んだ中で、最高に壊れた日本語で書かれていたのは中東の
テレビ局・アルジャジーラに関した作品だった。

しかし、浜の真砂ほどもある書籍の世界。私が知っている以上に酷い翻訳の
作品が世に出たようだ。

武田ランダムハウスジャパンが発行した『アインシュタイン その生涯と宇宙』が
それだ。問題になっているのは上下巻の下巻のある章。コンピュータでの自動
翻訳が、手直しもされずにそのまま掲載されているそうだ。

あまりの酷さに修正版が発行されるようだが、修正前の版は何故か古書価格が
高騰しているらしい。これ、珍本コレクターには堪らないのかも知れぬ。

それにしても校閲もせずに発行したのか?コンピューター依存症なのかよ。
文化事業でもある出版業としてどうかと思うぞ。

引き続き『ローマ人の物語11 ユリウス・カエサル ルビコン以降[上]』(塩野七生
 新潮文庫)を読む。

ポンペイウスに比べて圧倒的に少ない兵力、兵糧の不足。おまけにガリア戦役
から長年行動を一緒にして来た子飼いの兵士たちによるストライキ。どう考えても
ポンペイウス有利の情勢なのだが、カエサルは進軍を続ける。

そして迎えたドゥラキウム攻防戦。ポンペイウス軍に対して包囲網を敷くカエサル
軍だが、脱走したガリア騎兵ふたりがポンペイウス側に包囲網の弱点を教えた
ことでカエサル軍は窮地に陥る。

逃げ惑う兵士たちで現場は大混乱。突破された包囲網へ駆け付けたカエサルの、
兵士を鼓舞する声さえ効果なし。

ポンペイウス側に捕らわれた兵士たちは、かつてのカエサルの筆頭副将ラビエヌス
の前に引き出される。

「戦友諸君」。元部下たちにラビエヌスは呼びかける。「今日の有様が、カエサル
精鋭たちの闘い方か」「カエサルの精鋭は、逃げることしか知らないのか」

その後、捕らわれの兵士たちはひとりずつ槍で突き殺されるのだがこれをカエサル
への憎悪であるとされるこれまでの解釈を著者は否定する。

ラビエヌスは自分で自分を、反カエサルへ追い込んで行ったのではないか…と。
そうだとしたら、かつての部下を手に掛けることに決めたラビエヌスは心を鬼に
したのか。やばい、惚れた…。