あの頃、パリは巴里だった

「事実に基づかない質問を平気で言い放つことは絶対に
許されないことだ」

いやいや、官房長官。事実を確認するのが記者の質問ですから。
とことんポンコツですか。

ま、それだけ毎日新聞の望月記者の質問が政権側にとっては
痛いところを突いてるってことだな。

『パリの日本人』(鹿島茂 中公文庫)読了。

「今度、パリに行くんだ」と友人・知人に言いまくったことがある。
20代後半の編集事務所勤務時代、2回目の海外出張がパリだった。

語学の才能ゼロなので当然のようにフランス語は出来ないが、石畳
に感動し、パリジャンを気取ってカフェでクロワッサンとカフェ・
オ・レの朝食を摂った。

仕事自体が夜遅くまでかかったので、実際には時差ボケと睡眠不足で
ボーっとした頭でカフェの椅子に座っていたのだが、西園寺公望
東久邇宮稔彦もこの辺りを歩いたのかなぁなどと考えた。

明治時代から第二次世界大戦前までにパリに留学した日本人が、そこ
でどのような生活を送っていたかの足跡を追ったのが本書だ。

ただし、芸術家についてはパリ好きかパリ嫌いの両極端に分かれる
ようだとのことで除外されている。

「留学」の箔付けをしたいだけで海外留学した現代の政治家には、
バカロレアに合格した西園寺公望の爪の垢を煎じて飲ませたいわ。

東久邇宮稔彦臣籍降下までちらつかせて無理矢理留学期間を延長
させたことは知っていたが、日米開戦前に「日本はアメリカと戦う
のか?」「アメリカはそのつもりだから用心した方がいいぞ」と
ペタン元帥から言われていたとは初めて知った。

この辺りの事情は非常に興味深い。

そして面白かったのは平民宰相・原敬の、パリでの外交官時代。
この時の経験や人脈が、後の政治家としての糧となっているの
かもしれない。

他にも江戸最後の粋人と言われる成島柳北はパリでも粋人ぶりを
発揮しているし、スキャンダラスな女性・武林文子の章では彼女
に振り回される無想庵がとことん気の毒になって来る。

文庫化に際し「パリの昭和天皇」が加筆されており、『昭和天皇
実録』を引用しながら皇太子時代に非公式訪問をしたパリでの
様子を描いている。

この時に乗ったメトロの切符を、生涯大切に保管されてらしたの
だよね。ご自身で買い物をなされたり、日本にいる時に味わうこと
の出来なかった「自由」を体験で来たからなのだろうな。

本書で取り上げられている人たちはみな個性的で面白い。出来れば
タイトルの「パリ」は「巴里」がよかったかな…と思う。

おもちゃの列車と一緒に

まずはこちらの記事を。

http://karapaia.com/archives/52271654.html

ジョーも、ベストも、切なすぎる。

彼をガス室から救うことが何故できなかったのだろう。

引き続き『パリの日本人』(鹿島茂 中公文庫)を読む。

え…東久邇宮殿下が留学先のパリからなかなか帰国しなかったのは
現地妻が理由だってぇ?

あれから日本は変わったのだろうか

東日本大震災から明日で8年目ということで、震災関連のテレビ
番組が多くなっている。

でも、何か忘れていませんか?今日は東京大空襲から74年目なの。
まずはこちらだろうと思うんだが、追悼式典の模様もニュースで
わずかに流れただけ。

いつか東日本大震災も風化するんだろうかねぇ。

原発敗戦 危機のリーダーシップとは』(船橋洋一 文春新書)
読了。

先の大戦での敗戦と福島第一原子力発電所事故への対応の病根は、
同じ性質なのではないかを論じたのが本書である。

日本の政治・官僚の責任回避、危機に際しての組織としての機能
不全、権限・指揮系統の不透明性。それは戦時中から連綿と受け
継がれた。

そして、福島第一原子力発電所事故のような国家の存亡がかかっ
た危機に直面するとそれが如実に表面化する。

国民にパニックを引き起こす可能性が大きいからと、原発事故の
際の放射能拡散のデータは隠され、官邸も専門家と呼ばれる人も
「ただちに健康に影響はない」と繰り返した。

国民のパニックを心配する、その政府中枢が一番のパニックに陥り、
これまで安全神話プロパガンダを垂れ流して来た原子力ムラの
人々は頬かむりをし、関係官庁間では責任の押し付け合いに終始
する。

その一方で、「起こりえない」とされて来た全電源喪失が起き、
予備のディーゼル発電も使えなくなった福島第一原子力発電所
の現場では吉田所長以下の東電社員、協力会社の人たちが「玉砕」
覚悟で対応に当たっていた。

政治家や官僚の無知と無責任、事業者である東京電力本店の能力
のなさ。そのしわ寄せがすべて現場に押し付けられたのではない
だろうかと思う。

あの事故を教訓として、日本は変わったのか?私は変わっていない
と思う。福島第一原子力発電所事故以前、アメリカのスリーマイル
島、ソ連チェルノブイリを持ち出すまでもなく、茨城県東海村
JCO臨界事故からも学ばなかったのだから。

当時の民主党政権の事故対応は確かにグダグダだった。だが、民主
党だけに責任があるのだろうか。

2006年、共産党議員から時の安倍晋三に対し「巨大地震の発生に
伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに
関する質問主意書」が提出されていた。

スウェーデンでの二重のバックアップ電源喪失のような事故が日本で
起きる可能性、冷却系が使用不能になった復旧シナリオの有無、メル
トダウンの想定の有無、原子炉が破壊された場合の放射能拡散の被害
予測の有無等に関しての質問だった。

それに対し「海外とは原発の構造が違う。日本の原発で同様の事態が
発生するとは考えられない」「そうならないよう万全の態勢を整えて
いる」と答えるだけ。

起きたら困ることは起きないんじゃないか。起きないに決まって
いる。いや、絶対に起きないとして「最悪のシナリオ」を考える
ことを放棄して来たツケが、福島第一原子力発電所事故なのでは
ないか。

きっとまた、国家的危機に直面したらこの国は同じことを繰り返す
はずだ。

めったに体験できない読後感

くっだらないねぇ。大阪府知事大阪市長がダブル辞任して、
テレコ立候補してダブル選挙ですってよ。

馬鹿が馬鹿の一つ覚えでまたまた大阪都構想とかうわ言を言って
いるんだが、既に住民投票で否定されてるじゃん。

税金の無駄遣いできるほど、大阪って余裕あるんだねぇ。それだった
ら、大阪万博の費用は全部自分のところで賄ってね☆

大阪維新の会」と書いて「幼稚」と読んでいいですか。

『秘密工作者 チェ・ゲバラを殺した男の告白』(フェリス・I・ロドリ
ゲス/ジョン・ワイズマン 光文社)読了。

凄い、凄い!何が凄いって表紙カバーに記されている訳者名が、
著者の名前よりでかいのが凄いっ!

さすが世界を股にかけて来たノビーだっ!CIAに200人の知り合いが
いるとか豪語していたから、本書の著者も知り合いなのかしら?

で、凄いのは表紙カバーのデザインだけで内容はというと「へぇ
へぇ、そうでっかぁ」って感じ。

革命家チェ・ゲバラと言えば日本でも人気があるからサブタイトル
に入れたのだろうが、著者はCIAのエージェントしてボリビアでの
ゲバラ拘束には関わっているだけで実際に射殺したのはボリビア
政府軍の兵士だからね。

ウソを書いてはいけません。あ、そうか。訳者がノビーだからウソ
でもいいのか。だって、ノビーと言えば書店のノンフィクション・
コーナーよりも空想小説コーナーが似合う捏造ジャー…(以下、自粛)。

さて、肝心の内容。著者はカストロ憎しの亡命キューバ人。紆余曲折
あってCIAに在籍することになった。そこで実際に携わった、ボリビア
でのゲバラ生け捕り(ボリビア政府によって見せしめの為、処刑)や、
カストロ暗殺計画、ヴェトナム戦争等について書かれている。

フィデル・カストロがそのカリスマ性で革命後のキューバをまとめて
行った一方で、革命前のバティスタ政権の富裕層でアメリカに亡命し
キューバ人から、その死を望むくらいに憎まれていた。

だから、2016年にカストロの死が伝えられると狂喜乱舞する人々の
様子が報道されたのは知っていた。豊かな暮らしを根本から覆された
恨みなのだろうなと思って受け止めた。

なので、本書ではアメリカの傀儡政権側を支持した人々がバティスタ
時代をどう評価しているか知りたかったのだが、その点に関しては
皆無だった。

ただただ、カストロが憎いだけ。その恨みつらみが著者とCIAを繋ぐ
ことになったのだろが、結局は638回もカストロ暗殺計画を立てて
おきながらすべて失敗。カストロは天寿を全うしましたとさ。

ヴェトナム戦争にしても同様。著者の言いたいことを簡単にまとめると
「ヴェトコン殲滅に尽力しました」となるのだが、こちらもアメリカは
撤退するしかなかったじゃ~ん。

よくこんな作品を世に送り出したなぁと思う。CIAがただのオマヌケ
集団に見えるし、キューバに関しては益々カストロに肩入れしたく
なる不思議な内容だった。

まぁ、キューバにしろ、ヴェトナムにしろ、アメリカという巨人に
対峙した方に感情移入しちゃうんだよね、わたしゃ。

書かれている内容のほぼすべてに反感を抱かせてくれる読書体験
だった。めったにない体験をしたことだけが収穫かな。

誰が見たいですか?

保釈金10億円の振り込みが終わって、日産の前会長カルロス・
ゴーン容疑者が釈放された。

10億円を即座に用意できるなんてすごいなぁと思って報道を追って
いたんだが、保釈時の服装とか利用した車両とか、あれでよかった
の?弁護士さんの指示なんでしょう。

交通誘導員みたいな変装だし、車両は屋根に脚立が括り付けられて
いるし。「マスコミさん、どうぞ追跡して下さい」って感じだった。

それで夕方のニュースですよ。ヘリまで飛ばして東京拘置所からずっと
ゴーン容疑者を乗せた車両の追跡をしていた。馬鹿ですか?その映像に
何か意味がありますか?誰が見たいですが?

そんな映像を延々と垂れ流している時間があったのなら、今日、初公判
を迎えた籠池のおっちゃんとおばちゃんの報道に時間を割けよ。勿論、
森友学園問題を解説しながら。

あ~、やっぱマスゴミだわ。

『秘密工作者 チェ・ゲバラを殺した男の告白』(フェリス・I・ロドリ
ゲス/ジョン・ワイズマン 光文社)

亡命キューバ人でCIAエージェントだったフェリス・ロドリゲスが
明かすカストロ暗殺計画や、イラン・コントら事件の真相らしんだ
が、既に副題が嘘だろう。ボリビアでのゲバラの身柄拘束には関わっ
てるが、直接射殺したのはボリビア軍の兵士だろうに。

今上天皇に多大な影響を与えた人物

東京マラソンの表彰式で小池百合子東京都知事がポケットに
手を突っ込んでいたとかで、「感じ悪~~~い」と言われて
いるらしい。

そんなことしなくても、例の「排除します」発言だけで十分に
感じ悪いんだけどね。

小泉信三──天皇の師として、自由主義者として』(小川原
正道 中公新書)読了。

「霊前にしばしの時をすわりおれば みみにうかびぬありし日の声」

その死に際して未亡人に贈られた今上天皇の弔歌である。

小泉信三。皇太子時代の今上天皇東宮御教育常時参与であり、
慶応義塾長であり、マルクス主義批判者であり、経済学者である。

このうち、私が知っているのは東宮御教育常時参与であったこと
と、慶応義塾長だったことくらい。特に今上天皇に多大なる影響
を与えた人として興味を惹かれる人物である。

その小泉信三が、先の大戦中は戦意高揚に一役買い、塾生たちの
愛国心を煽っていたとは。平和を願ってやまない今上天皇の家庭
教師のような存在だったので、彼が戦中に展開した戦争肯定論は
いささか意外な気がした。

ただ、戦後はこの点を自ら反省しており、GHQ公職追放からも
辛くも逃れている。だからこそ、お妃選びにも係わり、戦後の
「新しい皇室」像に一役買ったのかもしれない。

「あとがき」も含め、200ページ足らずのページ数なので、かなり
駆け足の評伝になっているが、小泉信三という人物の概略を掴むに
はいいかもしれない。

福沢諭吉吉田茂との関係などもあって、面白いことは面白いのだが、
個人的にはサブタイトルの「天皇の師として」の部分に期待して手に
したので、食い足りなさが残った。

平成も間もなく終わる。象徴天皇としてどうあるべきかを模索し続け
今上天皇の姿を、小泉氏はどのように見たのかに興味があるが
即位さえも見届けず死去しているので私の叶わぬ思いだな。

警鐘に耳を貸さなかったのは私たちだ

立法府の長であり、森羅万象を担当している我が国の内閣総理大臣
今度は野党の不正統計追及に「だからなんだってんだ」と野次を
飛ばしたかと思ったら、「私が国家ですよ」と来たもんだ。

国難」だよ。

『熊取六人組 反原発を貫く研究者たち』(細見周 岩波書店
読了。

「大きな事故の要因となるような事象、例えば、立地場所で極めて
大きな地震津波、洪水や台風などの自然現象が過去になかったこ
とはもちろん、将来にもあるとは考えられないこと。」

原子炉立地審査指針に明記されていた文章である。この条件に照ら
したならば、既存の日本の原子力発電所はほぼアウトである。

尚、「明記されていた」と過去形で書いたのは福島第一原子力発電所
の事故以降のどの時点でかは不明だが書き換えられており、「大きな
地震津波、洪水や台風」の部分がばっさりと削除されている。

こそこそと何をしてくれているんだ?文部科学省

原発は安全でクリーン、運転時に二酸化炭素を排出しない、日本の原発
の審査は世界一厳しい(どこがどのように厳しいのかは教えてくれない)。

地震列島、火山列島である日本で、原発立地の近くに活断層があっても
「この活断層は死んでいる」と断定してボコボコ原発を建てて来たこと
そのものが大間違いなのだ。

3.11のあの大事故があっても「低線量の被曝なら体にいい」とか言い出し
た学者さんもいた。なら、お前が実証して見ろとと思ったのだが。

原発建設は国策である。だから、原発推進派の学者ばかりが電力会社の
プロパガンダを広めようとメディアに出て来る。しかし、少数ではある
原子力を研究するうちにその危険性に警鐘を鳴らす研究者もいる。

今中哲二、海老澤徹、川野眞治、小出裕章、小林圭二、瀬尾健。京都
大学原子炉実験所に在籍し、実験所のある場所から「熊取六人組」と
呼ばれるようになった人たちだ。

本書は彼らが何故、反原発に転じたのか。原発の危険性を訴える為に
どのような活動をして来たのかを詳細に追っている。

本書で特に注目するべきは日本初の原発訴訟となった伊方原発訴訟の
過程だ。建設反対派の原告住民側の証人として出廷し、被告である国
側が用意した専門家の安全理論を破たんさせている。

それでも、どうしても原子力発電を推進したい国側は権力をフルに発揮
して裁判長を交代させ、結果は原告住民側の敗訴となっている。

この訴訟の過程を読んでいると、原発安全神話がどれだけ脆い土台の
上に成り立っていたかが理解出来る。

スリーマイル島原発事故の際も、チェルノブイリ原発事故の際も原発
推進派の人たちは「日本では起こりえない」と言い切り、なんら危機感
を持たなかった。とある政治家は「全電源喪失は起こりえない」とまで
国会で発言した。

そうして、3.11を迎え、福島第一原子力発電所の事故が起きた。この
大事故が起きる以前から、原発の危険性に警鐘を鳴らしていた研究者
たちがいたのに、私たち国民の多くは耳を傾けなった。知ろうとしな
かった。

急逝したひとりを除き、熊取六人組も既に定年退職を迎えた。原子力
研究しながらも、その危険性を広く訴える後継の研究者が増えることを
願いたい。

そして、福島第一原子力発電所の事故を我々一般国民も忘れてはならない。