反戦兵士たちの声に耳を傾けよ

『冬の兵士 イラク・アフガン機関米兵が語る戦場の真実』(反戦
イラク帰還兵の会/アーロン・グランツ 岩波書店)読了。

「人間が歴史を学んで分かることは、人間は歴史から何も学ばない
ということだけだ」と言ったのは哲学者ヘーゲル。確かに学んでは
いないのだ。

ヴェトナム戦争時、当時は存在さえ極秘だったアメリカ軍の特殊部隊
タイガーフォースが繰り返した民間人虐殺、そしてヴェトナム反戦
契機となったソンミ村事件。

湾岸戦争時、一時停戦を受けてウェートから撤退するイラク軍や民間人
に対してアメリカ軍の戦闘機は非武装の車両を徹底的に爆撃した。明ら
かなジュネーブ条約違反である。

それでもアメリカは学ばなかった。2003年3月に始まったイラク戦争
でもアメリカ軍は交戦規定さえ遵守せず、暴虐の限りを尽くした。

本書は2008年に行われた公聴会での証言集である。イラク戦争
派兵され、自らも無辜のイラク人に銃口を向けた兵士たちが己の
罪を認め、人間性を奪い、アメリカ兵にもイラクの人々にも心身
共に深い傷を残したイラク占領からの即時撤退、現役・退役軍人へ
の医療保障等の給付、イラク国民への賠償を求めて、声を上げた
兵士たちの話は生々しく重い。

彼ら・彼女らのなかには9.11同時多発テロの後、国の役に立ちたちと
軍に志願した人たちも多い。だが、送り込まれたイラクで目にしたのは、
体験したのは狂気としか言いようのない現実だった。

食糧を入れた大きな袋を持っていた女性が射殺される。たまたま屋上に
いた幼い子供に銃口を向ける。間違った家に家宅捜索に押し入り、何も
かもを滅茶苦茶にして謝罪の言葉一つ残さずに引き上げる。アメリカ軍
車両の前方を走っているだけで狙撃される。道端に放り出されたままの
イラク人の遺体と記念撮影をする。

書き出したらキリがない。イラクの自由作戦はイラク国民にアメリカを
憎ませることしかしなかった愚行だ。

ヴェトナム帰還兵と同様に、イラクから帰還した兵士たちの多くが心的
外傷後ストレス障害を発症している。だが、退役軍人省は彼ら・彼女ら
に手厚い医療保障を用意しているのではない。だから、アルコールに
溺れ、家庭内暴力にストレスの捌け口を見つけ、自ら命を絶つことで
すべてを終わらせようとする帰還兵がいる。

自分たちと同じ思いをしている兵士を救いたい。大義なき戦争で犠牲に
なる前線の兵士を、戦場となった国の国民の犠牲をなくしたい。そんな
思いで反戦兵士となった人たちの証言に、一番耳を傾けなければいけない
のは戦争指導者たちなのではないだろうか。

安全な場所にいて、命令を出すだけの指導者こそが彼ら・彼女らの背負っ
たものを受け止め、考えるべきではないのだろうか。

アメリカだけの問題ではない。日本の自衛隊もいつか、他国の人々に
銃口を向けることがあるかもしれないのだ。加えて、時の日本政府は
いち早くこの欺瞞に満ちた戦争を支持したのだから。