あんたはクソッたれの嘘つきだ

『恐怖の男 トランプ政権の真実』(ボブ・ウッドワード 日本経済
新聞出版社)読了。

本書を読んでいる途中でまたひとり、トランプ政権から人が去って
行くことが発表された。ジョン・ケリー首席補佐官が年末までに
辞任する。

辞任というより更迭かもな。政権発足後から側近の誰もが自分の
考えを大統領に吹き込み、娘のイヴァンカとその婿であるクシュ
ナーは家族であることを特権のように使う。政治経験もないのに。

秩序も規律もなく、カオスと化したホワイトハウスを正常化しよう
としたケリー氏の姿は本書の中でも涙ぐましい努力だった。でも、
結局一番の障害はトランプ大統領本人なんだものな。

こうなって来ると次はマティス国防長官が政権を去る日も近いかも
しれない。ティラーソン前国務長官辞任後、唯一のブレーキ役に
なっていたマティス国防長官が去ってしまったら、もう誰も大統領
の暴走を止められないかもしれない。それどころか、暴走に拍車を
かける人間ばかりが側近として残りそうだ。

マイケル・ウォルフ『炎と怒り』を読んだ時も思ったが、ホワイト
ハウスの上級スタッフは、単なる思い付きを最高のアイデアだと
信じ込んでしまう大統領に相当に振り回されている。

そうして、大統領が軽率な行動を取らないよう、執務デスクから
署名しようとした文書や草稿をこっそり持ち去っていた秘書官の
努力に敬意を表したい。

集中力が持続できない、語彙が貧弱、自分が思い込んだこと以外は
すべて「でたらめ」だと言い切る、政治上の手続きを理解しない、
ブリーフィングの資料にさえ目を通さない、自分の間違いは絶対
に認めないし、過去の発言はその時の気分でなかったことになる。

「あんたはクソッたれの嘘つきだ」。

トランプ大統領の弁護士が辞任する際、本人に向かってこそ言わな
かったが、胸にしまい込んだ言葉。大統領の元を去って行った人
たちの多くが、同じような思いを抱ていたのではないだろうか。

これが世界唯一の強大国の大統領の現実なんだよな。コメディ映画
のあらすじだったらどんなによかっただろう。あ、任期終了後に
映画化したら面白そうだけど、怒るだろうな、大統領。

どうしようもない大統領だけれど、シリアのアサド政権によって
子供たちが殺戮されていることに心を痛めている様子には彼の
違う一面が見られてよかった。

でもな、アメリカ国内では移民親子引き離し政策という愚策を
犯しているんだよな。メラニア夫人からの批判もあって、早々に
停止はしたが、今後のことは分からない。

何しろ政策全般が大統領の思い付きと、イヴァンカやクシュナーに
吹き込まれたことで決まってしまうのだから。

本書では政権発足後の約1年のごたごたを関係者の証言から構成
している。トランプ大統領の任期中、あとどれだけの人事の交代
があるのだろう。

次にアメリカ大統領になる人は、トランプ大統領が引っ掻き回した
ことの尻ぬぐいが大変だろうな。お気の毒な気がする。