真相は判明しない方が魅力的

『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の
真相』 (ドニー・アイカー 河出書房新社)読了。

怖い、怖い。冬山、怖い。何が怖いって 気温が−30℃だって
言うんだから怖い。見渡す限り雪原で、強風が吹いているのも
怖い。人里離れた山国なんて何かあってもすぐに助けを呼べない
のが怖い。

更にそんな冬山へスキー・トレッキングに行ったチーム全員が
死亡しちゃったって言うんだから怖い。

そんな事件が起きたのが旧ソ連だって言うのがまた怖い。あ、これは
私の偏見か。

でも、本当に怖いのよ。1959年2月にソ連ウラル山脈で起きた遭難
事件は。トレッキング・チームのリーダーの名前にちなんで「ディア
トロフ峠事件」と呼ばれる、謎の多い事件の真相を究明しようとした
のが本書だ。

発見された遺体の状態が怖い。雪山なのにろくな衣服を身に着けて
なかったって何?しかもまともに靴も履いていないってどうして?
どうして安全なテントから離れちゃったの?しかもそのテントが
内側から切り裂かれていたってなんで?怖い、怖い。

死因は判明しているのよ。低体温症。当然だよね、厳寒の冬山なの
だから。でも、9人のうち3人が頭蓋骨や肋骨を骨折している上、
あるメンバーの遺体は舌が失われていたし、着衣から放射性物質
が検出されている。ひえぇぇ、怖い。男女9人のメンバーに一体
何が起きたんだ。

当時の捜査当局も困り果てたんだろうな。結局は「未知の不可抗力
によって死亡」と発表したから、さあ、大変。

当然のように出て来る雪崩説、先住民による襲撃説、ミサイルや
核実験の影響説、エイリアン説、そしてみんな大好き陰謀論

未解決事件マニアを惹きつけるに十分な魅力を持つこの事件を、
遭難したトレッカーたちの動き、当時の捜査の模様、そして著者
がロシアへ渡って調査した内容と実際にトレッカーたちが遭難し
た山へ赴く模様が交錯して綴られている。

ぐいぐいと引き込まれる。引き込んで、引き込んで、でも、著者
が辿り着いた結論は「へ?そうなの?」という感じで、結論部分
で突然に醒めててしまう。

生存者がいないので「真相」はやっぱり永遠に分からないと思うの
だよね。著者の結論も確実な裏付けはないのだし。未解決事件は
未解決の方がいいのかもな。メアリー・セレスト号だって、真相が
判明しないから、今でも人を惹きつけるのだからさ。

ただ、事件当時の状況を詳細に再現している点、トレッカーたちの
カメラに残された写真の掲載、読ませる構成は魅力的。結論部分の
読み手の力が抜ける感じさえなければ…って感じの作品だった。

で、読み終わってもやっぱり怖い。人里離れた冬山で死にたくは
ないよ〜。あ、私はそんな場所でトレッキングしないから心配は
ないか。でも、怖い。