日本的無責任の系譜なのか

『戦慄の記録 インパール』(NHKスペシャル取材班 岩波書店
読了。

川幅600mの大河を渡り、2,000m級の山々の連なる山脈を越え、
イギリス軍が拠点とするインド・インパールを攻略せよ。

日本陸軍史上最悪の作戦とも呼ばれるインパール作戦はどのように
立案され、遂行されたのか。生き残った元兵士たちの証言、発掘さ
れた新資料、司令官であった牟田口廉也中将が戦後に録音した肉声
テープや牟田口中将に仕えた元少尉の日誌から作戦の全体像を追った
映像作品の書籍化である。

本書と同タイトルのNHKスペシャルが放送されたのは2017年8月15日。
インパール作戦に参加し、生きて帰国した元兵士たちの証言が得られる
最後の機会だったのだろう。実際、本編放送後に番組で証言していた
元兵士の何人かが鬼籍に入っている。

牟田口中将の側で、司令部でどのような動きがあったかを詳細な日誌に
記した齋藤博圀元少尉も鬼籍に入ったひとりだ。番組ではむざむざと
多くの兵士の命を奪った作戦に対しての悔しさを滲ませた、96歳の
慟哭が胸に迫った。

曖昧な意思決定、戦略よりも人情論、作戦に難色を示した数少ない
兵站の専門将校を更迭し、3週間で攻略との予定が長引けば前線に
送った3つの師団の師団長が消極的だと理由で一斉に交代させる。

大体、「牟田口が熱心にやりたいと言っているからやらせてやれ」で
作戦が決まるってどうなのか。そうやって約3万人もの兵士が命を落と
した作戦が失敗しても、誰も責任を負わない。負わないどころかなす
り合い。

そもそも前線の兵士の命なんて偉い人たちにとっては虫けら同然で
あるのは、齋藤元少尉が残した回想録によってよく分かる。

「私は、第十五軍経理部に所属していました。作戦会議に出席した
経理部長の資料を持って同行し、別の部屋で待機していました。
呼ばれて資料を会議室に携帯しました。
 牟田口司令官、久野村参謀長、木下高級参謀、各担当参謀と核部長
が参集していました。
 私が入った折、牟田口司令官から作戦参謀に”どのくらいの損害が
あるか”と質問があり、”はい、五〇〇〇人殺せば(陣地を)とれると
思います”(と)の返事に、”そうか”でした。
 最初は、敵を五〇〇〇人殺すのかと思って退場しました。参謀部の
将校に尋ねたところ、”それは味方の師団で、五〇〇〇人の損害が出る
ということだよ”とのことでした。
 よく参謀部の将校から何千人殺せば、どこがとれるということを耳に
しました。日本の将兵が、戦って死ぬことを「殺せば……」と平然と
言われて驚きました。
 まるで、虫けらでも殺すみたいに、隷下部隊の損害を表現するその
ゴーマンさ、奢り、不遜さ、エリート意識、人間を獣か虫扱いにする
無神経さ。これが、日本軍隊のエリート中のエリート、幼年学校、
士官学校、陸軍大学卒の意識でした」

どれほど無謀な作戦でも、どれほどの兵士が命を落としても、成功さえ
すれば上層部の手柄。例え失敗しても責任はうやむや。今に続く日本的
な無責任の系譜なのかと思う。

生き残り、帰国を果たした元兵士たちは戦地に残して来た戦友への罪悪感
を抱え、戦後を生きて来た。その人たちの証言の多く収録され、現地の
少数民族日本兵に接した人たちを探し出し、無惨な状況だった兵士たち
の姿の証言も得られている。

動画サイトを探せば放送当時の番組も観られる。本書と併せて、是非とも
映像も観て欲しいと思う。