大義のない戦争のシンボル

安倍晋三が新しいパフォーマンスを始めたぞ。官邸で拉致被害者
家族と面会。これまで5年間、ず〜〜〜〜〜っとほっぽっていたの
になぁ。

南北首脳会談・米朝首脳会談の流れに乗ろうとしているのか、つい
この間まで「最大限の圧力」なんて言ったのに、今度は北の3代目
との直接対話を決意したらしい。

拉致問題は最重要課題なんでしょ?もっと早く決意しとけよ。

『私は英雄じゃない ジェシカのイラク戦争』(リック・ブラッグ
 阪急コミュニケーションズ)読了。

映画「プライベート・ライアン」で、ライアン兄弟のお母さんの家に
黒塗りの車で軍の使者が訪れる場面があった。軍役に就いた家族の身
に異変が起きた時に訪れる、悪い知らせの使者。

緑の瞳に金髪、地元の物産品評会でミスに選ばれたこともある19歳の
ジェシカ・リンチ上等兵の家族が住む家に、良くない知らせを携えて
死者が訪問したのは2003年3月23日の深夜だった。

「お嬢さんは、任務中に行方不明になっています。まだ行方がつかめ
ません。最後に目撃されたのは……」

補修部隊の上等兵だったジェシカは、イラクで給水タンクを牽引した
トラックを運転している最中に奇襲攻撃に遭った。ホピ族出身で親友
だったロリを含め、同じ所属の兵士が何人も命を落とした。

戦争捕虜となったジェシカを救出する為、アメリカ軍の特殊部隊は
作戦を展開する。

まるで映画の筋書きのように、ジェシカは収容されていたイラク
病院から救出された。救出作戦の一部は、とても都合よく映像に
収められ、世界中のメディアで報道された。

ただ、この救出劇には早くから疑問が呈されていた。捏造ではない
のか…と。ジェシカは補給部隊の兵士だし、実際、車列が襲われた
時、一発の弾丸も撃ってはない。それでも、彼女はアメリカ国民に、
メディアに、軍に、政府に、英雄として祀り上げられた。

実際、あの時、何が起きていたのか。ジェシカが収容されていた
イラクの病院に特殊部隊が踏み込んだ時、既にイラク民兵組織
はおらず、戦争の犠牲になって負傷したイラクの人々や医師や
看護師がいただけだった。

その病院の医師たちはジェシカに出来うる限りの治療を施し、年配
の看護婦はジェシカの気持ちを和ませる為に優しく歌い、どうにか
彼女をアメリカ軍に引き渡そうと努力してた。

本書は英雄にされてしまったジェシカ側の視点で描かれている。
本人が望んだものではないある種の狂乱のなかで、ジェシカ本人
が望んだのは「普通の生活がしたい」との思いだった。

ただでさえ重傷を負い辛い治療を続けなければならなかったジェシ
にとって、「作られた美談だ」との批判に晒されたのはどれほど心に
堪えただろうと思う。まして、親友を失ってもいるのだから。

戦争を遂行する側にしたら、シンボルが必要だったのだろうな。特に
イラク戦争のように根拠が不明確で始まった戦争に対しては特に。

本書はアメリカで発行されて時間を置かず、日本でも緊急出版され
たようだ。大急ぎで翻訳したのだろう。ところどころ、文章が読み
難いのが残念。