僕が諦めたら奴らが勝つ

ノーベル賞トランプ大統領に。私が欲しいのは平和だけ」

男前過ぎるだろう、文大統領。

アウシュビッツを一人で生き抜いた少年』(トーマス・バーゲンソール
 朝日文庫)読了。

ポーランドユダヤ人を父に、ドイツ系ユダヤ人を母に持つ著者は
チェコスロバキアで生まれた。そのチェコスロバキアナチス
ドイツが侵攻して来る。

一家はポーランドに移住するがそこにもナチスの脅威が迫る。父の
機転で何度かの危機を脱するものの、ユダヤ人であることを唯一の
理由として親子は強制収容所へ連行される。著者、5歳の時である。

最初に母と引き離された。しばらくは一緒の収容所にいた父とも
離れ離れになった。「子供は役に立たないから殺してしまえ」と
強制収容所を、奇跡的に生き延び、10歳で解放された回想録
が本書である。

貴重な回想録なのだろうと思う。アウシュヴィッツからザクセン
ハウゼンへの「死の行進」では凍傷で足の指2本を失ったものの、
他の子供たちのように命まで失うことはなかった。

幸運だったと、著者は言う。確かにいくつかの幸運が重なって
いた。アウシュヴィッツの医師は著者を守ってくれたし、ザクセン
ハウゼンで知り合ったノルウェー人の青年は出来うる限りの気遣い
を見せてくれた。

ただ、著者が生き延びられたのは幸運だけではなく、離れ離れに
なるまでに事あるごとに父が示してくれた危機を脱する際の冷静
さや、生来の前向きな心持ちもあったのではなかろうか。

「僕が諦めたら、奴らが勝つ」。そんな思いで、父の機転を受け継ぎ、
著者は過酷な現実を生き抜いた。

残念ながら著者に生き抜く為の手本を示してくれた父は収容所で
亡くなっているが、母は生き残り、孫を抱きしめることが出来て
いる。

戦争と差別意識がもたらす悲劇の検証として参考になるのだが、惜しむ
らくは翻訳が直訳っぽいところだ。

英語が話せて読み書きが出来ても、商業レベルの日本語の文章を書く
素養がなければ翻訳には手を出さない方がよかったのではないかな。
ふたりの訳者の名前を見て、そう思った。

プロの翻訳家による新訳で読みたいところだ。