アメリカ陸軍が隠蔽した重大事件

「あってはならないこと」

沖縄県の小学校校庭に、在沖米軍のヘリの窓が落ちた事故での
日本政府のコメント。

学校や民間住宅の上空を軍のヘリコプターが飛ぶこと自体、
「あってはならないこと」なんだが。(-_-;)

『タイガーフォース 人間と戦争の記録』(マイケル・サラ/
ミッチ・ウェイス WAVE出版)読了。

1969年12月。雑誌「ザ・ニューヨーカー」に掲載された記事が
波紋を読んだ。調査ジャーナリストであるセイモア・ハーシュ
筆になる記事は、前年の3月に南ヴェトナム・ソンミ村における
アメリカ軍の虐殺行為を暴き出していた。

ヴェトナム戦争時の事件は、アメリカ世論の反戦運動の原動力にも
なった。しかし、アメリカ軍はソンミ村事件を上回る虐殺事件を
長年隠し続けていた。

手を合わせて命乞いする農夫を、少年に手を引かれて歩いていた盲目の
兄弟を、子供を抱いた若い母親を、姪の家に鴨を届けようとした男性を、
アメリカ軍の監視の目をかいくぐって田植えをする農民たちを、警告も
与えずに射殺した。

草ぶきの小屋に一斉射撃を浴びせた後、亡くなった母親の横で泣く赤ん坊
の首をナイフで切り落とした。住民が塹壕に隠れているのを分かっていて、
何発もの手投げ弾を投げ込んだ。そうして、自分たちが殺害した住民の
死体から戦利品として耳を切り取り、それを繋げてネックレスのように
首にかける。

反吐が出る。こうやって書き連ねているだけで気分が悪い。一連の蛮行は
ソンミ村事件のようにひとつの集落で起きた事件ではない。

アメリカ陸軍の精鋭部隊でヴェトナム戦争当時はその存在さえ隠されていた
「タイガーフォース」の隊員が7カ月に渡って行く先々で行った、無差別殺人
である。

ソンミ村事件の時、上空をパトロールしていたヘリコプターの乗員が、自軍
の兵士たちの蛮行を目撃し、住民救助のヘリの要請をすると同時に、今すぐ
やめなければ機関銃を発射すると脅して蛮行をやめさせた。

タイガーフォースにも良心を失わない隊員はいた。日に日にエスカレート
する隊員たちの行為が目に余り、小隊を管轄する上官に隊の実情を報告し
た隊員もいたし、虐殺行為を率先して行った小隊長に刃向った隊員もいた。

「ヴェトコンを殺した」。その殺害人数の多さに比べ、押収した武器が
皆無であることも司令部は把握していたはずだ。それでも、上層部は
タイガーフォースの虐殺を止めようとはしなかった。

それどろこか、3年後にひとつの供述書をきっかけに「戦争犯罪の疑いあり」
と陸軍犯罪捜査局が長い年月をかけて捜査したのにも関わらず、事件その
ものを「なかったこと」にして捜査と捜査資料に封印をした。

多くの罪のないヴェトナム人が殺された。ソンミ事件では中尉ひとりが
罪に問われたが、タイガーフォースの犯罪では誰も罪に問われていない。
それは、命令系統を遡って行けばアメリカ陸軍全体の罪となるからだった
のだろうかと思う。

反省もせず、罪も見逃されて来たことが、アフガニスタンイラクでの
アメリカ軍の暴走に繋がっていやしないかと思う。誰もアメリカを裁け
ないのなら、内部での常識的な判断が必要だろう。そこにさえも自浄
作用がないとしたら、いつまでもヴェトナム戦争の時と同じように、
武装していない民間人への虐殺は止められないのではないだろうか。

タイガーフォースによる戦争犯罪は、40年の時を経て公にされた。
報道したのはアメリカ・オハイオ州の地方紙「トレド・ブレード」だ。
本書の最終章では何故、「トレド・ブレード」がタイガーフォースの
情報を入手したのかを詳らかにしている。

アメリカの調査報道の神髄だ。タイガーフォースによる住民虐殺の描写
は読んでいて吐き気がするほどだが、軍の犯罪捜査官の地道な調査など、
読ませる内容になっているのに翻訳がかなり残念なのが勿体ない。

ヴェトナム戦争は泥沼の戦争だった。いつ殺されるか分からない状況で
兵士たちは恐怖を怒りに変えていった。前線の兵士が負った心の傷は
計り知れない。だからといって、民間人を片っ端から殺していいこと
にはならないんだ。