明治・大正・昭和を生きた最後の元老

「きょうあなたたちの前で遅きに失した謝罪をさせていただきます。
国民すべてが過去を認識し未来に向かって歩まなければならない」

カナダ・トルドー首相が数百人の先住民の前で謝罪の言葉を述べた。

同じ2世政治家でもうちのボンクラとは偉い違いだわ。

西園寺公望 古希からの挑戦』(伊藤之雄 文春新書)読了。

「古希からの挑戦」なんて副題がついているから、元老としての
存在感を高め、若くして即位した昭和天皇を輔弼した時代に焦点
を当てたのかと思ったのだが、生い立ちから綴られている。

五摂家に継ぐ九清華家のひとつ、徳大寺家に生まれ同じ清華家
西園寺家に養子として入ったお公家様。なのに、明治維新では自ら
鉄砲を担いで参加した。そんなことをするお公家さんはあんまり
いないと思うんだが。

だが、明治維新後に政治にかかわるのは遅かった。10年近いフランス
留学が原因なのだが、これが後の世界の中で日本を考えるという西園寺
の思考に影響を与えたのかと感じた。

帰国後は伊藤博文に引き立てられ、政治の表舞台に出て来る。ただ、
これまでの西園寺公の評伝では昭和時代に重きを置いて書かれている
のに対し、本書では海外公使時代や2度の首相時代につても詳しい。

政治的な動きでは他の西園寺関連の作品を読んでいれば目新しいこと
はない。しかし、生涯正式な結婚をしなかった西園寺と3人の内縁の
妻との私生活の部分は他の作品では触れられることが少ないので、
この点は収穫かも。

特に「お花」さんとの騒動は小説にしたら面白そう。

女性や障害者の教育が軽んじられていた時代に、教育の大切さを考えて
おり、自身の娘にフランス語を含めた教育を施していた。やはりこの人
はあらゆる面で大きな視点で物事を見ていたのかと思う。

毎度のことだが著者の作品は饒舌に過ぎて時々主軸がどこにあるか、
ぼやけてしまうのが難点。それでも購入して読んでしまうのは、テーマ
となっている人物が興味深いからなんだけどね。

特に西園寺公については特異な政治家として私は大好きなんだ。だから、
日中戦争以降、期待をかけた近衛文麿木戸幸一が軍部に引きずられて
行く様を見ているのは最後の元老として辛かったろうと思うし、高齢の
西園寺公の気力を挫いたとも思うんだ。近衛公は平時の宰相ならよかった
かもしれないが、戦時には向かなかったんじゃないかな。

余談だが、西園寺公=大滝秀治、近衛公=岸部一徳昭和天皇=イッセー
尾形なんてキャストで映像を見てみたいと思うのである。もう叶わぬ夢
だけどね。