探偵小説に影響を与えた刑事と事件

天皇陛下退位に関連して12月1日に皇室会議が開かれるのが
決まった。皇族の議員は秋篠宮殿下と常陸宮華子殿下。

しかし、今上陛下が退位なさると皇位継承1位となる秋篠宮殿下は
会議の内容がご自身のことに及ぶ為、予備議員である常陸宮殿下
がご出席なさるとか。

陛下のご希望通りに、滞りなく退位についての準備が進むといいわ。

『最初の刑事 ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』
(ケイト・サマースケイル ハヤカワ文庫NF)読了。

ヴィクトリア朝のイギリス。スコットランドヤードに初めて刑事課が
設立された。優秀な警察官から選抜された8人の刑事のなかに、本書
の主役であるウィッチャー警部がいた。

鋭い観察眼を持つウィッチャー警部はそれまでにも多くの事件を解決
し、刑事としての仕事にも自信を持っていた。そんな彼が、ある殺人
事件の解決の為にとある村に派遣された。

事件が起きたのは1860年の6月。中流家庭のカントリーハウスで、
3歳の男の子が眠っていたベッドから連れ出され無惨な死体となって
発見された。

州警察が捜査にあたるものの、事件は進展せず。電信が発達して新聞
報道が活発になったことで、周辺住民や新聞は州警察に対して不信感
を露わにしたことから、スコットランドヤードからウィッチャー警部
が解決に乗り出すことになった。

イギリスは現在でも階級社会だが、ヴィクトリア朝の時代ではそれが
更に顕著だ。家庭内で起きた殺人事件とは言え、中流階級の生活を
世間の目に晒すことをよしとしない。

それでも、状況証拠を積み重ねてウィッチャー警部は犯人を特定する。
しかし、「労働者階級の刑事が、中流家庭の人間を裁くなんてとんで
もない」との意識が検察官や州警察にあったこともあり、ウィッチャー
警部が犯人と確信した人物は不起訴処分とんされた。

この事件が引き金となって、ウィッチャー警部の名声は一挙に地に墜ち
てしまう。そもそも、州警察の初動捜査が杜撰極まりないものだったの
だが、この時代も中央と地方の警察との意地の張り合いがあったのか
と感じた。

ロード・ヒル・ハウス事件と呼ばれるこの殺人事件と解決にあったた
ウィッチャー警部は、ディケンズらの探偵小説に多大な影響を及ぼし
ているらしい。

本書ではウィッチャー警部の挫折後の活動以外にも、家族を失った
一家のその後、事件後数年が経過してからの自白など、入手可能な
限りの資料を駆使して綿密に追っている。

翻訳が少々私には合わなかったのだが、イギリスでは切り裂きジャック
と同様に有名だという本書の事件の顛末は犯人の自白はあるものの謎も
残っていて興味深かった。

世間はウィッチャー警部を非難しながらも、新聞や警察に「犯人につい
て、自分はこう思う。こう確信している」との投書が有名無名取り交ぜ
て多く届いていたなんていうのは、21世紀の現在とあまり変わってない
のかな。今はインターネットだけどね。

捜査方法こそ発達したものの、刑事の仕事のどこ臭さはその最初期から
現在まで、あまり変化していないのかもしれない。

探偵小説も好きだが、その探偵小説に影響を与えた事件と刑事の話を
誌って探偵小説を読むとまた違った味わいがあるかも。