トーマス、また君か

「ここぞっ!」と言う時にしくじる男・前原の代表辞任に伴って、
大塚氏が民進党の新たな代表に就任した。他に立候補者がおらず
に無投票だったけど。

まぁ、この先瓦解するであろう政党の代表に進んでなろうという
人はあまりいないだろうね。

『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(トーマス・トウェイツ
 新潮文庫)読了。

自宅の裏庭で鉄鉱石から鉄を抽出し、ジャガイモの澱粉からプラス
チックが作れると知ればチャレンジし、某国の硬貨からニッケルを
入手する。考えられるあらゆる手段を駆使して原材料を揃えて、
自作のトースターを作り上げたイギリス人のトーマス。

大学院の卒業制作だったこのトースター・プロジェクトをまとめた
『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫)は世界中で
反響を呼び、作品はトーマスが暮らすイギリス以外の国の博物館で
も展示された。

無謀とも思えるチャレンジを繰り返すトーマスの姿に笑えた一方、
大量生産・大量消費を考えるきっかけも与えてくれた。そんな
トーマスが、またやってくれた。今度は自分が作品になってし
まっているのだ。それも、ヤギ。

めでたく大学院を卒業してフリーランスのデザイナーになったもの
の、暇である。仰せつかったのは姪っ子の愛犬の散歩。既に33歳に
なったトーマスは、将来に対するぼんやりとした不安を抱えていた。

その解決方法は…そうだ!しばらく動物になって人間としての悩みを
忘れちゃえばいいじゃんっ!

ど、どうしてそうなる?トーマス。フリーランスを辞めて就職する
とかって選択肢はないの?それか積極的にデザイナーとしての自分を
売り込むとかさ。

私の思考の斜め上を行っているのであろうトーマスには現実逃避が
一番の選択だったようで、思い立ったら行動は早い。早速、医学研究
などの支援をしている団体に「象になりたいプロジェクト」の申請
を出す。

そう、そもそもの始まりは象になることだった。でも、実際に象を
見る機会があってその大きさにあっさり断念。象になりたくなくなっ
ちゃった。さて、どうしたものか。

そこで相談したのがシャーマン。えっと…動物学者とかじゃなくて、
何故にシャーマン?ねぇ、トーマス。どうしてそうなっちゃうの。

そしてシャーマンの助言は「ヤギなんてどう?」だった。それ、
いただきっ!ヤギになって草原をギャロップしたいっ!

見事な方向転換だよ、トーマス。

イギリス国内のヤギの権威に「ヤギって悩むんですか?」などと話を
聞きに行き、言語神経の研究者に電気ショックで人間の言葉を失わせ
て下さいとお願いし、病気で死んだヤギの解剖に立ち会って体の構造
を調べ、義肢技術者に頼んで本来の仕事の合間にヤギのように動ける
補助具を作ってもらう。

完璧だよ、トーマス。ママに作ってもらったヤギ用防水スーツもある
し、これで一通りヤギになりきるツールは揃った。さぁ、ヤギの群れ
に同化する為、アルプスへ出発だ!

なんでわざわざアルプスなのか分からん。ヤギについてレクチャーして
もらった保護施設でもいいんじゃないか?でも、きっと雄大な自然の
なかで草をモグモグするヤギがトーマスの目標だったのだろうな。

アルプスでのトーマスはしっかりヤギになっていた。しかも、ヤギたち
から「仲間」と認められちゃってた。

こうと決めたら走り出す方向が人とは少々違っているけれど、トース
ターの時といい、今回のヤギになりきるプロジェクトといい、「やり遂
げる力」の発揮度合いは超人的だ。

トーマスがアルプスに行ってヤギになりるまでには哲学的考察があり、
人間と動物の進化についての言及があり、人間の言語を理解すると
言われる動物に対しての検証もありで、人間とその他の動物との
違いを考える上で非常に参考になる。

やっていることは破天荒かもしれないが、トーマスって実はとても
教養豊かで感受性の鋭い人なのではないかしら。

嫌な出来事が重なったりすると「あ〜、鳥になって好きなところへ
飛んで行きたい」とか、「猫になって1日中ゴロゴロしていたい」と
思うことがある。だからって、トーマスのように本当に人間をお休み
してしまうことはないんだけどね。

だって、本書を読むと人間と動物の体の構造の違いが分かってしまう
から、人間は人間以外のものにはなれないんだと思っちゃう。

さて、念願の(?)にヤギになってアルプスを歩き回ったトーマス。
次は何をしてくれるのだろうか。期待しちゃうよ。

尚、ヤギになれたトーマスだがギャロップは人間の体の構造上無理
だった模様。ヤギのように前脚(人間なら両腕)から着地したら、
鎖骨が折れてしまうのだそうだ。

各章、カラーでの写真が豊富でヤギ・プロジェクトの様子がよく理解
出来る。だが、解剖時の写真もあるので苦手な人は要注意だ。