ハイジャックのパンデミックだ

がっかりです、スーチー女史。ミャンマー西部でのロヒンギャ
方たちに対する人権侵害の実態調査をする為の国連調査団
へのビザ発給を拒否とは。

民主化は目指すけれど、マイノリティは対象外ってことなんでしょうか。

『ハイジャック犯は空に彼方に何を夢見たのか』(ブレンダー・I・
コーナー  亜紀書房)読了。

ヴェトナム帰還兵の黒人男性ホルダーとマッサージパーラーで
働くチャーミングな白人女性カーコウ。ふたりの偶然の出会いは
アメリカ史上最長距離・最高時間のハイジャック事件を引き起こ
すことになった。

本書はこのふたりの事件を中心に据え、アメリカ航空業界がハイ
ジャックのパンデミックに陥っていた1961年から1972年にかけて
のハイジャック事件史になっている。

当初の計画とは違ったが、見事ハイジャックを成功させたホルダー
とカーコウ。ホルダーがヴェトナムで体験した地獄、軍隊内部で
の差別、犯行に至った動機や手段、そして実際のハイジャックの
模様、ふたりの「その後」が詳細に綴られている。

手に汗握るという感じでこの部分も面白いのだが、その多くは失敗
に終わったハイジャック事件の変遷と、多発するハイジャックの防
止に頭を悩ませるアメリカ連邦航空局と各航空会社の攻防が
非常に興味深い。

持ち込みが制限された手荷物はX線検査機を通され、旅客は
金属探知機を通過しないと航空機に搭乗できないという現在
からは考えられないくらいに警備はゆるゆる。

それでも発券カウンターで搭乗客に不審な人物がいないかの
チェックはじめたが、それも忙しくなればあってなきがごと
し。ハンディ・タイプの金属探知が常備されるようになって
も、故障で使用できなかったり絶対数が足りなかったり。

今から考えれば「どうぞ、乗っ取って下さい」と言っている
ようなもの。

航空各社が積極的にハイジャック防止に努めて、現在のよう
な煩わしくはあるが厳重な警備体制が出来上がったのかと思っ
ていたのだが、これが違った。

いつ起きるかも分からないハイジャック犯の為に、多額の費用
を掛けて安全対策を取るより、ハイジャックされてキューバ
飛んだ機体を買い戻す方が安上がりだったらしい。

だから、伝説のハイジャック犯クーパーなんてのが表れちゃっ
たのかもね。身代金とパラシュートを要求して、大金と一緒に
空の彼方へ消え、その行方は今も不明だとか。

「ここではない、どこか」。ハイジャック犯はみんなそんな
夢を見ていたのかもしれないね。

ただ、9.11アメリ同時多発テロ以降、ハイジャック犯=テロに
なってしまっているようだけれど。