この世に書物ほど大切な物はない

芥川賞受賞作家でお笑い芸人の又吉直樹氏の第2作『劇場』
が先日、発売になった。

新刊書店に立ち寄ったら平積みになっていたのだが、手に取って
いる人がいなかったな。

まぁ、私は受賞作『火花』も読んでいないのでなんとも言えないけど、
おもしろいのかな。受賞後の作品こそ真価を問われると思うのだ。
どうなんでしょうかね。

『名編集者パーキンズ 下巻』(A・スコット・バーグ 思想社文庫)
読了。

ひたすら悲しかった。ある批評で、作家として推敲することや、物語を
構成する能力を欠き、パーキンズがいなければ作品を発表することが
出来ないと酷評されたことで、トマス・ウルフはパーキンズと袂を分か
つことになる。

ウルフがパーキンズに投げつける理不尽で攻撃的な言葉に、きっと
パーキンズは傷ついていたのだろう。プライベートでは5人の娘を
授かったパーキンズにとってウルフは自分の息子のような存在でも
あったのだから。

それでもウルフにとって、パーキンズは特別な存在だった。ウルフの
日記の引き裂かれたページにはパーキンズに宛てて「あなたに会う
まで、わたしには友人がいなかった」と書かれていた。

本書を元に映画化された「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」
がトマス・ウルフとの関係に焦点を当てたのも分かる。ふたりは作家と
編集者との関係以外にも、息子と父であり、生徒と教師であり、長い
時間を過ごした友人でもあったのだもの。

続くフィッツジェラルドの死もパーキンズにとっては衝撃が大きかった
のだろうと思う。それでも、トマス・ウルフが37歳の若さで結核脳炎
亡くなったことの打撃は計り知れない。

晩年のパーキンズには以前の情熱は失せていたのではないのかな。
若い作家を発掘し、作品を世に出し、読者に届ける。編集者としての
仕事は連綿と続いているのだが、フィッツジェラルドヘミングウェイ
ウルフの作品を世に知らしめようとした時のエネルギーは残っていな
かったと思う。

作家志望の若者から持ち込まれる原稿は引きも切らなかったけれど、
作品を選別する勘さえも鈍っていたようだ。

上下巻合わせて、パーキンズ本人の手紙や作家たちからパーキンズに
宛てた手紙、パーキンズ本人を知っていた人々に取材して書かれた良書。

自身が手掛けた多くの作家、友人の死を見送り、名編集者は1947年に
肺炎により62歳で死去した。

パーキンズがいたからこそ、私たちは今でも『偉大なるギャツビー』『武器
よさらば』などが読めるんだよな。作家と読者の架け橋となった名編集者
に感謝を。