自分の読書への姿勢を反省する

イギリス・エリザベス女王の夫君、エディンバラ公フィリップ王配殿下が
今年8月をもってすべての公務から引退することが発表された。

95歳だものね。それでも昨年は200を超える公務に出ていらした。
お疲れ様でした。9月以降はごゆっくりお過ごし下さい。

『プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』(アン・
ウォームズリー 紀伊国屋書店)読了。

『さよならまでの読書会 本を愛した母が遺した「最後の言葉」』
(ウィル・シュワルビ 早川書房)は、癌に罹患した母と、母の治療
に付き添う息子が本について語り合う、たったふたりの読書会の
物語だった。

同じ読書会でも本書の舞台はカナダ・オンタリオ州の中警備刑務所。
夏季を除いて刑務所内で月に一度開催される読書会に出席するのは
勿論囚人たちである。

著者はこの読書会を主催しているキャロルに誘われて、ボランティア
として参加する。作品として世に出すことを前提としての参加なので、
読書会以外でもメンバーとなっている囚人たちに個別に面接を行い、
2011年から2012年にかけての記録をまとめているのが本書だ。

中警備刑務所とは言え、強盗や詐欺以外にも殺人などで終身刑
収監されている囚人もいる。

読書会が発足した時点で、多くの囚人たちのなかからメンバーが選ば
れたのかは不明だが、囚人たちが課題本を深く読み、理解しているの
に驚く。そして、自分の読書の理解度がいかに浅いかを顧みて反省
しきりである。読んで理解することではなく、積読本を消化すること
自体が目的になっていないか、自分。

課題本では人種や宗教、虐待など、かなりデリケートな問題がテーマ
になった作品も多く、囚人たちは自身が犯した罪や育成歴などに照ら
して課題本を読み込んで行く。

時には意見の対立で不穏な空気が流れることもあるが、著者や主
催者であるキャロルが予想もしていなかった感想が続々と発せられる。

本書で綴られている読書会の模様は、まるで読み手もがそこに参加
しているように引き込まれる。

そうして、他の刑務所へ移動したメンバーや仮出獄して社会復帰施設
に移ったメンバーは、そこで新たに読書会を設立しているなんて素敵
じゃないか。

少し前、新聞の投書欄で「読書はしなきゃいけないのか」みたいなテーマ
で紙面での意見交換が続いていた。強要されれば読みたくなくなるのは
分かる。でも、本から得られるものは何かしらあると思うんだよね。

尚、本書は真摯に本と向き合う囚人たちの姿にも心打たれるが、刑務所
での読書会に参加することで著者が抱えるトラウマの解消の物語にも
なっている。

旦那様の赴任先であるイギリス・ロンドンで二人組の強盗に襲われた経験
を持つ著者が、犯罪者である囚人たちの読書会に参加するには多大なる
勇気がいったと思う。しかし、一定の時間を囚人たちと一緒に過ごす内に
彼らとハグが出来るまでに恐怖心が解消されているのだから。

それにしても、カナダの刑務所は結構自由度が高いのだな。監房で料理を
作ることが出来たり、こんな風に読書会を開催出来たりするのだもの。

「読みかけの本を残して出所してはいけない。戻って続きを読みたくなるか
らだ。」

本書の扉に書かれている「刑務所の言い伝え」だそうだ。読書会メンバー
で出獄した囚人たちが、刑務所に舞い戻って来ないことを願う。