歴史の波に消えた野球チーム

いつかこの時が来るとは思っていたけれど…。ロシアの男子フィギュア
スケート選手、エフゲニー・プルシェンコが引退を表明した。

「選手として平昌には行かない。間に合えば指導者として行きたい」

もう何年も手術の繰り返しだったものね。シニアに上がった16歳の
時からずっとトップレベルのスケーターだったのだもの。もういいよね。

記憶に残るたくさんの演技をありがとう。

バンクーバー朝日 日系人野球チームの奇跡』(テッド・Y・フルモト
 文芸社文庫)読了。

旦那の仕事の関係で1年半ほどカナダ・バンクーバーに住んでいた。
昼間は暇なのでバンクーバーのあっちこっちを、ひとりでうろうろして
いることが多かった。

私の散歩コースのひとつになっていたトレーディングのお店で、ホッケー
カードを物色していたら見知らぬ男性から声をかけられた。「中国人か?
日本人か?」。英語で聞かれた。

日本人であると答えると男性はたどたどしい日本語で質問を重ねて来た。
バンクーバーに日本人の野球チームがあったのを知っているか?」。

その昔、アメリカ同様にカナダにも日本から移り住んだ日本人が多く暮らし
ていた。その日系人たちがいくつもの野球チームを作っていた。

趣味でカナダの野球の歴史を調べているというカナダ人男性の話で初め
て知った。本書はそんな日系人の野球チームのひとつであり、最強であっ
た「バンクーバー朝日」の活躍を描いた小説である。

著者はバンクーバー朝日の初代エースピッチャーであったテディ古本の
ご子息であり、ノンフィクションではなく小説という表現方法なので実際
よりも美化された部分もあるのではないかと思う。

それでも、日系人に対する差別や排日運動という過酷な境遇に晒され
ながら、カナダのトップリーグで優勝を果たすまでには途轍もない苦労
があったであろう。

白人のスポーツである野球で、日本人が白人に勝てるはずがない。当初
は見世物であり、日系人が白人チームにコテンパンにやっつけられるの
を楽しみにしていたカナダの観客たちだったが、バンクーバー朝日の徹底
したフェアプレーと頭脳的な戦略に魅了される。

決して経済的に豊かではなかった日系人たち。人種差別や偏見に晒され
ながらも日本人としての矜持を保ち続けるのは、よほど強い気持ちがなけ
ればならなかったろう。

ただし、本書は読みようによっては危険性をはらんでいる。いわゆる「日本
スゴイ」のようなプロパガンダに利用される危険性だ。

ただ、著者の自身の父親や日本人移民に対しての深い愛情は伝わって
来る。だからこそ、太平洋戦争勃発で解散を余儀なくされ、歴史の波に
消えて行った野球チームのことを書き残しておきたいと思ったのだろうな。

カナダでの日系人への差別についても、歴史としてきちんと書かれた作品を
読んでおかなければと思った。

尚、本書には引退後のテディ古本の「その後」を描いた続編小説があり、そ
の作品も私の手元にある、。次はこの作品だな。