そもそも歴史観があるのか

ホワイトハウスvs司法になってるな、アメリカは。三権分立がきちんと
機能している証拠でもあるんだが。

入国禁止の大統領令に抗議する意味で、ニューヨーク近代美術館では
対象7カ国の芸術家の作品を展示している。

文化も政治に「No」が言える。アメリカのこういうところは好きだわ。

『安倍首相の「歴史観」を問う』(保坂正康 講談社)読了。

タイトルに安倍晋三の名前が入っているが、決して安倍晋三個人
を批判している書ではない。昭和史を調べ、書き続けている著者
が史実を捻じ曲げる歴史修正主義者に対して警告を発している。

そこに安倍晋三も含まれるのだろうが、私はそもそも安倍晋三
確たる歴史観を持っているのかに疑問なんだよな。

以前、安倍晋三の生い立ちを綴った作品の中で大学時代に彼を
教えた教授が思想史の勉強なんてしていなかったと言っていた。
そんな人が歴史書で独学するだろうか?

愛読書はお友達・百田尚樹の小説だっけ?エンターテイメント小説
が悪いとは言わないが、もうちょっとなんかないかなぁ。『永遠の0』
なんて切り張り小説じゃないか。

知識も教養もないから「靖国神社アメリカのアーリントン墓地と一緒」
なんて言って、アメリカを怒らせたりするんだろうな。靖国神社は宗教
施設だけど、アーリントンは宗教施設じゃないってことも理解してない
のかも。

日本国憲法を「押し付け憲法」「占領憲法」という人がいる。勿論、政治
家にもだ。だから、日本独自の憲法が必要だと説く。これに対し著者は
言う。

「占領期の吉田茂首相や昭和天皇は傀儡政権の役を果たし、政治的
な戦争でアメリカ側に屈服した指導者ということになる。」

GHQの占領下で作成された憲法でも、平和憲法ならいいではないかと
しか思っていなかったので、著者のこの言葉にはっとした。麻生太郎
対して「お前のじいさん、傀儡じゃないか」って誰か言えるのかしらね。

安倍政権が長くなるにつれ、得体の知れない息苦しさを感じているの
だが、本書を読んでその正体が分かった気がした。

太平洋戦争の軍事主導時代、国家は国民を正方形の枠に閉じ込めよう
としたと本書は解く。その四辺は「弾圧立法の運用」「官民挙げての暴力」
国定教科書の軍事化」「情報発信の一元化」だと。

今の時代と似てやしないか。そして、この正方形は徐々に狭くなって行く
のだろう。日本のメディアはアメリカのトランプ政権のすったもんだばかり
報道しているが、今国会で政府が成立させようとしている共謀罪につい
て詳報しているメディアはどれだけあるだろう。

「とにかく政治家がいなかった」とは軍事主導の時代を振り返っての木戸
幸一の言葉だったが、政治家との肩書を持った人はいるが歴史に学び、
教訓としている政治家は一体、どれほどいるのだろうか。

都合のいい部分だけをチョイスして史実を捻じ曲げようとしてはいない
だろうか。歴史に学ばない者は歴史に報復される。そんな言葉さえ知ら
ぬから、国会で「八紘一宇」を口にする政治家が現れるのだろうか。

講演の内容、雑誌に発表した文章、新聞連載のコラム等をまとめた作品
なので、同じ内容の繰り返しはあるが昭和史に照らして現政権を考える
には良書である。

それでもやっぱり安倍晋三歴史観があると思えないんだよな。保守系
の論説の気に入ったところだけを繋ぎ合わせているように感じる。歴史書
の数冊でも読んでいれば「云々」を「でんでん」と読まないと思うのよ。