メディアは政治に敗北するのか

「3兆円くらいかかる予定です」と言っていたはずなのに、「なんか
いろいろ見直したら2兆円くらいで済みそうです」だって。

2020年東京オリンピックにかかる費用である。どんなどんぶり勘定
なんでしょうか。それ、税金ですからねっ!

『戦争報道とアメリカ』(柴山哲也 PHP新書)読了。

私がヴェトナム戦争に拘るには訳がある。圧倒的に不利だと思われた
北ヴェトナムがアメリカ軍の追い出しに成功したのもあるが、メディアが
「第4の権力」として機能していたからだ。

ヴェトナム戦争は多くの秀逸なルポルタージュを生んだ。ニール・シー
ハンの『輝ける嘘』、デイヴィッド・ハルバースタムの『ベトナムの泥沼
から』、開高健の『ベトナム戦記』、本多勝一の『戦場の村」』等々。

メディアが政府発表と異なる戦場の現実を伝え、アメリカ国内のみなら
ず、世界各国で反戦デモが行われるきっかけをつくった。しかし、そん
なメディアもいつしか変質してしまった。

ヴェトナム戦争がメディアの料理であるとするならば、イラク戦争は敗北
である。それも完敗だった。アメリカ政府がイラク攻撃の口実としたのは
イラクによる生物兵器及び大量破壊兵器保有だった。メディアはこの
口実を検証するどころか鵜呑みにし、愛国心を煽る報道を繰り広げた。

アメリカ政府は明らかにヴェトナム戦争での失敗から学んでいる。だから、
湾岸戦争では取材を厳しく制限し、メディアから批判が上がればイラク
争では従軍取材をさせ、軍や政府が見せたい現実だけを見せたのでは
なかったか。

本書はアメリカ政治とメディアの変質をレポートしている。発行が2003年
なのでイラク戦争を主として扱っているが、戦争報道の変遷を大まかに
掴める良書だ。

メディアが戦争を止めた時代があった。現地から都合の悪いレポートを
送り続けるハルバースタムを配置換えしろとの政府からの要求に対し、
ニューヨーク・タイムズ」は明確に「No」を突きつけた。

毎日新聞に在籍した大森実や、TBSのキャスターだった田英夫は北ヴェト
ナムの現状をレポートした。残念ながら日本のふたりはアメリカ政府の圧
力に屈して、退社・番組降板を余儀なくされたが。

時を超え、唯一の超大国となったアメリカは国連を軽視し、イラク攻撃に
反対するフランスやドイツの声を無視してイギリスと共に戦争を始めた。
イギリスはともかくとして、唯一アメリカを支持したのが我が国・日本な
のだけれどね。

私はなんでイラク攻撃なのか、さっぱり分からなかった。今でも分からな
いんだけどね。やっぱりチェイニーなんかが持っていた石油利権絡み
なのかしらね。日本政府はイラク戦争の検証もしてないし。

報道の自由はもはや絵空事になってしまったのだろうかと思う。普段は
アメリカの悪口ばかり言っているのだけれど、アメリカ・メディアの報道
には一定の信頼を置いている。それでも「やっぱり変質しているんだろ
うな」と感じることはままある。

それが日本となったら目も当てられない。大手メディアは権力を監視する
という「第4の権力」としての役割を放棄してしまったのかと感じることが
多くなった。

政治家の質の低下と共にメディアも衰退するのだろうか。私が知りたいと
思うニュースは一体、どこにあるんだろうか。