新たなる戦争文学の誕生か

天気予報が当たった。11月に関東で初雪である。

早朝、家を出た時は雨だったが派遣先に着いて喫煙室で一服して
いたら、白いものがちらほらし出した。

室内で外を見ている分には綺麗でいいんだけどね。帰宅時間には
雪はやんでいたけれど、寒かったぁ。

この気温だと、明日の朝の路面凍結も心配だわ。

『11日間』(リー・カーペンター 早川書房)読了。

母の名前はサラ。父の名前はデイビッド。二人の間に生まれたのが
一人息子のジェイソン。だが、ある日、父デイビッドは母と息子の前
から姿を消し、次には訃報が届いた。ジェイソンがまだほんの子供
の頃だ。

母はひとりでジェイソンを育てた。穏やかで深い愛情を注いで。そう
して成長したジェイソンは大学進学ではなく、兵士なることを選び、
兵学校に入学し、アメリカ海軍特殊部隊を志願し、優秀な兵士と
なった。

類まれな兵士としての能力。だが、ジェイソンンの心のうちでは他の
選択肢もあるのではないかとの思いも育っていた。そうだ、次の任務
を最後に軍を退こう。

最後になるはずだった任務の最中、ジェイソンが行方不明になった。
サラの元へその知らせが届いた時から、ジェイソンと再会するまでの
11日間を描いた小説である。

ある時はサラの視点で、ある時はジェイソンの視点で、過去と現在が
行き来する。お互いがお互いに抱ている感情、父デイビッドへの思い。
そして、似たような母と息子の間の温度差。

極めて抑制された筆致が、戦争に係わるとはどういうことなのかを
母子の心を通して考えさせてくれる。

本書はフィクションではあるけれど、戦場に我が子を送り出した世界
中の母親はサラと同じような不安を抱えて過ごしたのではないだろう
かと思う。

我が子はどこでどのように過ごしているのか。無事に家族の元へ帰って
来てくれるのだろうか…と。

先日、駆けつけ警護の任務を付与された自衛隊の部隊が南スーダン
へ出発した。日本も既に他人事ではないのではなかろうか。今回の
駆けつけ警護にはいろいろと制約があるようだが、自衛隊員が戦闘
に巻き込まれる可能性は以前に比べたら遥かに高くなっている。

太平洋戦争以降、戦場へ我が子を送り出す母はいなかったのにね。
我が子が戻ってくるまで大きな心配を抱えて過ごす家族が出来てし
まったね。

サラの思い、ジェイソンの思い。それぞれが胸に痛い作品だった。
戦闘場面が克明に描かれているのではない。残酷なシーンがある
のでもない。それだからこそ、感情に走らずに書かれた分だけ余韻
が大きい。新たなスタイルの戦争文学なのではないかな。