文化的ホロコーストが行われている

昨夜は久し振りでテレビドラマを観た。NHKでやっていた「夏目漱石
妻」である。

演出も脚本も映像も良かったわぁ。第1回は妻・鏡子さんが漱石との
最初の子を流産した後の身投げ事件まで。久し振りにドラマでボロ
ボロと泣いてしまった。

次回も観ようっと。

チベット焼身抗議 太陽を取り戻すために』(中原一博  集広舎)
読了。

焼身は自殺の中でも最も激しい苦痛を伴うものと言われている。体液
は沸騰し、眼球は膨張し破裂する。息をすれば気管と肺は焼け、激しい
痛みと共に呼吸困難に陥る。」

そんな大きな苦痛が伴う焼身が止まらない。中国政府の弾圧に苦しむ
チベット自治区では2008年のチベット騒乱以降、抗議の焼身が後を絶
たない。

本書は中国政府のチベット政策の歴史と、焼身抗議者が何を訴えよう
としたかと焼身抗議への反応にで章を。2009年から2015年までの焼身
抗議者143人の記録を記した第3章に大半の紙数が費やされている。

焼身抗議者は数ではなく個人である。なので、それそれの焼身抗議者
の写真が添付され、家族構成が書かれ、焼身の状況、遺書など。判明
している限りの情報が詳細に記されている。

いたたまれなかった。辛いとか、悲しいではなく、読んでいていたたまれ
ないのだ。我が身を灯明として燃えて行った人々が、これだけいること
にだ。

チベット人にとって、ダライ・ラマ法王は太陽である。しかし、中国政府
共産党こそ太陽なのである。だから、一つの国にふたつの太陽は
必要ないのだ。そこで、チベットの人々への弾圧が行われる。

否、それは弾圧という言葉では生易しいのかもしれない。チベット語
教えること、ダライ・ラマの写真を飾ること、チベット仏教の教えに沿った
教育をすること。すべてが禁止される。これは文化的なホロコースト
のではないか。

当初の焼身抗議者には僧侶や尼僧が多かった。しかし、時が経つごとに
幼い子供を持つ若い父親や母親、遊牧民にまで抗議の焼身は広がって
行った。

ダライ・ラマ14世はインドへ亡命したままだ。ダライ・ラマ14世に次ぐパン
チェン・ラマ11世となった6歳の少年は転生認定3日後に両親共々に行方
不明となり、現在もその消息は不明である。

チベットの人々は願っている。ダライ・ラマ法王のチベット帰還を。長い
歴史をもつチベット仏教の下での生活を。

だが、中国政府の弾圧はどれだけの人が焼身抗議をしても収まる気配
はない。北京オリンピックの開催前には「フリー・チベット」をスローガン
に日本国内でもチベットへの圧政への抗議運動が起こった。だが、それ
が継続しているかと言われればそうじゃない。

中国当局による情報管理が徹底しているのもあるだろうが、チベット
何が起きているのかがほとんど伝わってこない。稀に潜入に成功した
欧米メディアの記者のレポートが伝わるくらいか。

ダライ・ラマ14世の来日にしても新聞の片隅に小さいな記事が載るくらい
で、テレビニュースでながれることもほとんどない。それでも、チベット
人々に対する中国政府の態度は変わっていないのだよね。

焼身抗議者の心の悲鳴が、絶叫が、この1冊には詰まっている。読み切る
のが辛かった。日本は何か出来ないのだろうか…と考えてしまった。