だが、編み直すことは出来る

フランスの週刊新聞「シャルリ・エブド」。売り物は風刺なんだが、
今回のはとても風刺とは言えないだろう。先日、大きな地震
見舞われたイタリア。その被災者たちをパスタに見立てたイラスト
を掲載した。

瓦礫に挟まれた犠牲者が「ラザニア」ってさぁ…。こりゃ風刺でも
なんでもなく、ただの悪ふざけだろう。

イスラム教を揶揄しテロの標的にされ、「私はシャルリ」が連帯の
象徴となり、表現の自由を守るスローガンにもなった。だが、その
表現の自由をはき違えていやしないか。便所の落書きレベルだよ。

『綻びゆくアメリカ 歴史の転換点に生きる人々の物語』 (ジョージ・
パッカー NHK出版)読了。

第二次世界大戦後、戦場となり疲れ切ったヨーロッパ列強に変わり、
唯一の超大国となったアメリカ合衆国。しかし、そんなアメリカにも
変化の波は徐々に迫っていた。

『繁栄からこぼれ落ちたもうひとつアメリカ 果てしない貧困と闘う
「ふつう」の人たちの30年の記録』(デール・マハリッジ/マイケル・
ウィリアムソン ダイヤモンド社)は、懸命に働いても貧困から逃れ
られず彷徨う人々を追った30年の記録だった。

本書も変わり行くアメリカで生きる4人を中心に時代を追った作品だ
が、『繁栄から…』が取材者の視点が多く含まれていたのに比較し、
本書は取材者の視点がまったくない。ひたすら対象者の生きて来た
のりを描くことに終始している。

4人のなかでも特に興味深かったのはひとつの町の衰退をつぶさに
見て来たシングル・マザーの黒人女性だ。彼女が生まれ育ったのは
ヤングスタウン。ブルース・スプリングスティーンが楽曲の題材にも
した町だ。

製鉄業で栄えたヤングスタウンは産業が空洞化した町は、このよう
に滅びて行くとの見本のようになってしまった。かつては裕福な白人
が多く暮らし、彼女は祖母は富裕な未亡人の家で家政婦として働き、
居心地のいい自分の家を手に入れた。

しかし、アメリカ政府が結んだ貿易協定は国内の産業に衰退をもた
らした。最初に白人がいなくなった。工場が閉鎖され、労働者がいなく
なった。労働者が消えた町からは商店が撤退した。そうして、町は
荒れ、空き家では放火が頻発する。

ヤングスタウンだけではない。アメリカにはヤングスタウンのように
打ち捨てられた町が多くある。

この黒人女性も、ほかの3人も時代の変化のなかで苦しみ、足掻き、
苦しみながらも僅かな希望を見出して前向きに生きることを選んで
いる。

強いアメリカの復活ではなくていい。普通の人々が、普通に生きられ
アメリカがあれば、それでいいのではないだろうか。

パーティはいつか終わる。金融バブルも、ITバブルも、あれは一時
のパーティだった。パーティが終わるごとに人々は痛手を受けたが、
痛手を受けながらも踏ん張っている姿は決して特別なものではない。

綻びは元には戻らないけれど、編み直すことなら出来るのだもの。

誰もが踏ん張ろうとしている。だから、希望が見出せるのかもしれない。
年代ごとを代表する著名人のストーリーや、フロリダ・タンパの盛衰を
盛り込んだ700ページ近い大作だが飽きずに読めた。

日本にも本書や『繁栄から…』みたいなノンフィクションがあるといいのに
な。私は普段、アメリカの悪口ばかり言っているけれど、ノンフィクション
作品に関しては完全にアメリカの方が秀逸だ。