はぐれ者からヒーローへ

フランスのニースではトラックが暴走し、トルコでは軍によるクーデター
未遂。

嫌なニュースばかり盛りだくさんだよ。こうなってくると、世界中で安全な
場所が皆無になる日も近いかもな。うぅ…。

バーニー・サンダース自伝』(バーニー・サンダース 大月書店)読了。

大統領指名選に名乗りを挙げた時、「謎の上院議員」とまで報じた
日本のメディアがあった。2大政党が機能しているアメリカ議会で、
長年無所属を貫いて来たからなのだけれど、これは完璧に日本
側の勉強不足なんだけどね。

共和党はともかく、民主党ヒラリー・クリントンが指名獲得の最有力
候補だった。オバマ大統領が初の黒人大統領なら、次は初の女性
大統領との期待もあったのだろう。

そのヒラリーと互角に戦い、かつ追い詰めたのがバーニー・サンダース
だ。ただし、本書は今回の大統領指名選より20年ほど前にアメリカで
出版された自伝なので原題は『Outsider in the House』。

日本語訳にすると『下院のはぐれ者』。それを『ホワイトハウスのはぐれ
者』に改題し、「まえがき」と「あとがき」を加筆しての出版だ。

自宅キッチンから始まったサンダースの選挙活動が、行く行くは全米に
熱狂の嵐を巻き起こすとは誰も思わなかっただろうな。

バーモント州バーリントン市長として始まった政治家としての経歴。時々
の選挙をどのようにして戦って来たかが事細かに記されている。

大統領予備選でもサンダースが訴えていることは政治家としての一歩
を踏み出した時から変わっていない。

サンダースは常に弱者の味方だ。労働者、貧困層、女性、同性愛者、
そして子供。アメリカを支配する1%の超富裕層を更に優遇するのでは
なく、すべてのアメリカ国民が普通の生活を送れる社会を目指す。

理想論だと切って捨てるのは簡単だろう。しかし、バーリントン市長
時代、いくつかの理想を実現している実績がある。

アメリカの選挙と言えば、競争相手を貶めるネガティブキャンペーン
市長選でも、下院選でも、サンダースはこの手法を絶対に使わない。
この点だけでも好感が持てるんだよな。

無所属ではあっても共和党民主党のすべてを否定しているのでは
ない。自分の考えと近い議員がいれば、政党の垣根を超えて連携
する姿勢も無所属ならではなのじゃないかな。

アメリカでのサンダース旋風に便乗した格好での日本語訳の発行
ではあったが、教育や医療、住宅問題、最低賃金の引き上げ等、
サンダースが訴えて来たことを読むとあの熱狂にも納得が出来る。

しかし、日本語訳の発行を急いだせいか、元から版元にその気が
なかったのか分からないが注釈が一切ないのが残念だ。

議会に提出された法案や、アメリカの議会制度についての注釈が
ないと理解しにくい部分があると感じた。

尚、サンダースは上院議員になってからの2010年に富裕層への
減税措置延長に対して8時間30分に及ぶ演説を行っている。
この演説の全文を日本語訳でつけてくれていたならなぁ。

サンダースおじいちゃん、私は結構好きなんだ。アメリカ人だったら
彼に投票しているわ、きっと。